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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第三章 インストラクション
Section 6 ジュニアスクール&クラブの計画と運営

インストラクションの中で最も重要であり最も難しいのがジュニア指導である。かつて、「ジャック・ニクラス基金JGAジュニアスクール」「高校ゴルフ連盟サマースクール」「日刊スポーツ主催ジュニアスクール」「文部省後援:夢の学校ゴルフ教室」他いろいろなジュニアスクールの指揮をして思うのは、ジュニア指導には明確なポリシーがなければ、単なる興行に終わってしまうことである。
ジュニア指導に必要なポリシーは教育性、継続性、一貫性である。名ばかりの大義名分や一過性の興行実績は、主催者満足だけに終わり子供の成長には余り役に立っていない。この種のスクールに参加する子供は殆んどスターを夢見る英才教育志向で人間教育志向はない。英才教育ならば親がわが子を育てるシステムの方が遥かに大きな実績を残しているが、それは親子で一流選手を目指すという目的動機が継続性と一貫性をもった強烈なポリシーとなるからである。しかし、一般にはゴルフを通して人間教育や人格形成を図る教育性がポリシーとなり、その目的を達成するために継続性と一貫性が追及されるのである。

ジュニアスクールの性格

ジュニアスクールはゴルフに触れる機会に乏しい子供たちに、ゴルフの楽しさを体験させるプロモーションとして開催されるべきだろう。
ゴルフを単なる遊びとして習うなら、日本の生活習慣や社会情勢から見て少し贅沢すぎて教育上あまり感心しない。スポーツとしてなら野球・サッカー・水泳・柔剣道など青少年にとって好ましいものが数多くある。ゴルフは青少年にとって少し贅沢かもしれないが、人格形成や人間教育として他のスポーツでは得られない大きな利点があるという確信が必要である。その確信こそポリシーといわれるもので、ゴルフの基本精神である礼儀、品格、正直、誠実、忍耐、寛容など人の徳といわれるものが涵養されるからこそ、教育投資に見合うのである。
ジュニアスクールはタレント養成学校と異なり、スターを養成することが目的ではない。ゴルフを通して人格形成をはかり人間教育に役立つからこそ、多少お金がかかっても幼少の時期から学ばせる価値がある。子供は無限の可能性を秘めた素材である。その可能性を発掘することに教育の目的がある。幼少期にゴルフと出会うことによって、その子の人生を限りなく豊かなものにするならば、親にとっても指導者にとっても限りない喜びであり、大きな社会貢献として役立つことになる。
ジュニアスクールは必ずしもボランティア活動でなければならない理由はない。教育ビジネスとして堂々と名乗りを上げることに何ら遜色ない。ゴルフは教育サービス事業として他の追随を許さぬほどの文化性を有している。その代わり教育が目的かビジネスが目的か問われるような本末転倒をしてはならない。純粋な親心や童心を食い物にするビジネス、それも神聖ゴルフを利用した悪徳商法であっては断じてならない。
ジュニア育成やジュニアスクールは、とかく業界団体の振興策やメーカーの販売戦略に利用されがちで根底に教育性・継続性・一貫性に欠ける場合が多い。ジュニアと謳えば即、健全性や社会性が充足されると考えるのは余りにも短絡的で、真の健全性・社会性とは何かを真摯に捕らえて企画開催しなければならない。ジュニアの名を借りたポリシーなき企画興行は反って不健全性や反社会性が問われることを承知していなければならない。

計 画

ジュニアスクールには上記のような性格があるから、計画の段階から基本方針やコンセプトを明確にしておかなければ、後日大きな禍根を残すことになるだろう。家庭教育や学校教育が荒廃したように方針やコンセプトを間違えば必ず組織崩壊というアノミー現象が現れる。アノミー現象が起きるのは規律なき自由や権利の主張が最大の原因で、規律も規範もないジュニア教育は百害あって一利ない。いやむしろ主催者や指導者を窮地に追い込むような事態も発生しかねない。
計画の段階からゴルフの基本精神に則ってジュニア教育を行う旨宣言し「趣旨目的に反するものは制裁し反省なき者は退会処分に処する」とすべきである。未成年といえども権利の前に義務があること、自由の前に責任があることを自覚させ、保護者ともども秩序を守ることを誓約させなければならない。それにはゴルフの基本精神を理念とするポリシーを掲げ、この理念を不文律として運営することを主催者も指導者も誓わなければならない。
この基本コンセプトを誤って商業主義を前面に打ち出したり、顧客至上主義の方針に従って子供をお客様扱いすれば、忽ちアノミー現象を引き起こしてスクールは混乱し間もなく崩壊する。誤った自由や権利の主張が裁判に発展することすらある。
だからといってジュニアスクールを危険視しタブー視する必要はない。ポリシーのない計画の危険性を強調するだけで、ポリシーさえ明確にすれば混乱する教育マーケットは、明らかに優れた教育プログラムの供給を待ち望んでいる。だから、自信を持って地域ナンバーワン・オンリーワンの教育サービスを提供すれば必ずカスタマーに歓迎されるはずである。計画に戦略性を持たせることこそ重要な要件といえよう。

運 営

ジュニアスクールの運営は成人スクールより遥かに難しい。生徒の年齢差・経験差が極端に出るからである。小学4年の初心者と中学3年の経験者をどのように扱うか、しかも同じクラスに混在する場合も想定すれば、しっかりした計画とマニュアルがなければ最初から破綻する。前者と後者ではモチベーションがまるで違う。ジュニアの入門者は親に勧められるか、反強制でやらされていることが多いからモチベーションが低い。反対にジュニアの経験者は面白くて仕方がないから指導者の言うことなど聞こうともしない。成人スクールでは絶対ありえない現実を前にして、指導者自身がまず最初に茫然自失する。
ジュニアスクールでは生徒の年齢と経験量が運営上重要な要件となる。入会申込書に記載があってもなくても初期情報だけをアテにしてはならない。本人の顔を見て話を聞いて初めて初期情報が得られたと考えなければならない。つまり生徒ひとり一人を観察して初期情報化しなければ、プログラムもマニュアルも適応できないのである。従ってワンパターンのプログラムもマニュアルも実践には役に立たないことが多く、いくつか用意した上で現場の状況を観察しながら適宜調整し変更していく必要がある。
大人と違って子供は正直だから観察し易いし、ストレートに反応することが多いから対応は容易である。それだけに対応する運営側に適応性や弾力性が必要とされ、運営側の論理に従って計画どおりに運営しようとすれば反ってクラスは混乱し、やがて破綻する。
先に述べた「一貫性」とは戦略の一貫性であって、戦術にもならない状況判断の局面で意固地になっては子供に笑われる。運営側に豊富なプログラムや余裕のあるカリキュラムが用意されているからこそ、状況に応じた適切な対応が可能になる。
臨機応変な対応は一貫したポリシーに基づく継続教育に支えられるもので、場当り的な対応とは根本的に異なることを理解していなければならない。

クラブ性

ジュニア育成の導入局面はスクール指導から開始することになるが、時間の経過と共に指導局面から育成局面に入る。ゴルフに対して興味も関心も薄い段階ではゴルフの楽しさを教えることが主眼であるが、やがて規律を守ることの大切さを教えなければならない。
ゴルフを学ぶ仲間が人間的に信頼し合える仲間に発展しコミュニティサークルに成長する。やがてクラブに発展するがコミュニティサークルとの違いは、クラブには明確なポリシーに基づくガバナンスが存在しなければならない。ガバナンスとは一定の理念や規範によって規律が守られている状態を指し、具体的にはゴルフの基本精神に支えられたジェントルマンシップが育つことである。
ゴルフの基本精神はジェントルマンシップそのものであって、礼儀、正直、誠実、寛容、謙虚など、信頼される人間に必要な資質を構成するものである。これが人間を育てる教育性であって、教育性なきクラブ活動は技術を争う競争社会であり、そこには横暴、虚偽、不正、差別、不遜など反社会的な性格が芽ばえ易い。クラブを支えるポリシーは常にゴルフの基本精神でなければならない所以である。
ジュニアスクールには、このような長期戦略性が必要であって、短絡的な思いつきやブームに乗って始めれば間もなく混乱し破綻する。地域の子供たちをゴルフによって立派な大人に育てようという考えが、地域の人々の共感を呼び協力となってスクールやクラブを発展させる原動力になるはずである。
NGF発行『ジュニアゴルフプログラムの運営と計画』では次のように考え方を述べている。「・・ゴルフというゲームは人間的成長と学習にとって素晴らしい可能性もっている。・・ゴルフのルールが教える公明正大な処置は人生のルールにも同様に適用される。ゴルフのゲームで成功するための本質的な部分である勇気と忍耐と自己抑制は、競技ゴルフの下で若者達の性格の中に強化されうる価値なのである。単なるジュニアゴルフ活動をジュニアゴルフプログラムに変身させるのは、このような特別な目標に対する認識をさらに拡大させようという努力なのである。」

 

参考文献:
ジュニアゴルフプログラムの計画と運営 : NGF by Dr.Gary Wiren