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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第三章 インストラクション
Section 4 データクリニックとトレーニングメニュー

日本ではプロも含めて殆んどのゴルファーが記録やデータをとる習慣がない。米国や豪州のプロや学生は実に丹念にスコアの内容を記録しデータ化しているが、これは単なる習慣の問題ではなく、コーチングやマネジメントサイエンスの発達によるものである。プロのコーチも学生のコーチも強い選手養成のために科学的トレーニングの方法としてデータクリニックを行っている。
日本のコーチは依然として精神論とワンポイントレッスンに終始しているが、旧軍隊の根性教育と余り変わっていない。最も進歩的でなければならない大学ゴルフ部も旧態依然としているところを見ると、どうやら日本のゴルフ文化の後進性を象徴しているのかもしれない。トレーニングにデータを使用することは、他のスポーツ分野で盛んに実行されているが、商工業分野には未だ遠く及ばない。日本のゴルフが商業娯楽主義によって発展してきたことを考えれば、商業サービスビジネスとして今後データクリニックが発達することも考えられる。

データクリニック

日本の国民スポーツとして発展した野球の世界ではスコアリングによるデータクリニックが発達している。リトルリーグや高校野球の世界でも打率、長打率、安打率、三振率、出塁率、得点率、盗塁率、防御率、配球率、四死球率、被安打率ほか実に豊富な統計データをとってトレーニングを行っている。
ゴルフの世界ではスコアリングによってフェアウェイキープ率、OB発生率、パーオン率、パーセーブ率、平均パット数、ティーショット平均飛距離など統計データとしている。
NGFのデータ表にはワンパット率、ツーパット率、スリーパット率、バンカーショット率、バーディー獲得率、パー獲得率、ボギー発生率、ダブルボギー発生率なども記載されている。
これらのデータはコースでどのようなゴルフゲームを行っているかを明らかにするもので、案外本人も気が付いていない事実が多い。特にゴルフは個人競技のうえ練習と競技が別々なところで行なわれるために、記録やデータを取らなければ実戦で何が起きているか分からない。そのうえプレーヤー自身がプレーに夢中になって、何が起きたか分からなくなってしまうことが多い。指導する側からすれば、スイングを診る以外にクリニックの方法ないのが実状であった。データクリニックを行うには、まずデータを取るところから始めなければならない。

データクリニックの方法

現在の技量経験に関係なく、人には全て潜在能力と能力開発の可能性がある。それらを包含してパフォーマンスと称しているが、データにはその人のパフォーマンスがデジタルに表記されているものと考えられる。
クラブを振る力はそのままヘッドスピードに現れ、飛距離となって数字に表れる。スイングの正確な反復再現性はフェアウェイキープ率となり、OB発生率としてデータになる。距離と方向は二律背反の相関関係にあるから、多くの人のデータと比較観察すれば、その人のショットパフォーマンスは概ね判断できる。また平均パット数やパット率を観察すれば、パットパフォーマンスも概ね判断できる。ショットとパットを連携するショートゲームでは、その人の器用さを表わすゲームパフォーマンスあるいはテクニカルパフォーマンスとして現れるから、PGAスタッツではスクランブリング ‐Scrambling‐ という概念でデータ化している。
このようにデータは各人の傾向やパフォーマンスを客観評価するものだから、経験者はデータから長所短所を含め傾向やパフォーマンスを探り出し、短所を改善し長所を伸ばして競技力を向上させることができる。スイングクリニックだけではスイングやショットを改善できても、ゲーム展開を改善しスコアメイクに結びつけることは難しい。インストラクションの立場からすれば、指導の結果がスコアに結びついて初めて顧客満足を与えられるわけで、より良いサービスを提供しようとすればデータクリニックに発展させることが求められるだろう。
ハンディキャップやデータの計算方法は簡単であるが、作業が面倒で自分で実際に行おうとすると厄介で長続きしない。パソコンが普及し身近に存在していても、自分のスコアを自ら入力し管理している人をめったに見かけないのは、作業が面倒というよりセルフマネジメントそのものに難しさがあるのかもしれない。生命にかかわる健康管理や生活改善についても医師から強制されるまで、なかなか自分でできるものではない。データクリニックの方法は決して難しくないが、自分でデータを取り自己診断してパフォーマンスの改善に結びつけるまでが容易ではない。だからビジネスの世界ではデータクリニックが優れたサービスプログラムとしてマーチャンダイズされるのである。

トレーニングメニュー

人はなかなか自己分析できないし自己改善もできない。欠点を指摘されても素直に認めることすらできない。余程強力な動機によって自分自身を客観的に見つめ、改善の必要に迫られない限り現状を維持する習性がある。
ゴルフの場合にはコースで大恥をかいた、惨めな思いをした、ライバルに叶わない、などが強力な動機となって自己改善に踏み切ろうとするようである。しかしワンポイントレッスンを数回受けた程度で目的は達成されないばかりか、結果は一向に改善されない。その人固有のプレースタイルは、ほとんどその人の性格的な癖であるから、小手先のレッスンだけで改善されるはずがない。ゴルフの特徴や性格を知り、自分の考えを整理してトレーニングメニューをつくらないと練習やレッスンが無駄に終わることが多い。
人により異なるが、通常は学習-練習-演習の3Dシステムに従ってメニューを組み立て、局面に応じたプログラムを用意する。学習の嫌いな人、練習の嫌いな人、勝負を好む人などさまざまだが、いずれの場合も実際はプラトー現象といわれる「壁にぶつかる」状態から脱皮できずに行詰まっている人が多い。本人が自己改善を決意し、更なる向上を望むなら適切なトレーニングメニューを提供しなければならない。
トレーニングメニューのスタンダードが『National Golf School 40 Lessons』であるが、学習-練習-演習のトレーニングメニューを自分でつくり、自分で実行することは案外難しい。インストラクションのサービスプログラムとして、誰もが無理なく実行できるレーニングメニューとマネジメントシステムを用意する必要がある。
特に需要独占市場の商業ビジネスの世界では、カスタマーは勝手であること、価格以上の品質を求めること、自由な市場選択権を持っていることを忘れると市場から大きな「しっぺ返し」を喰う。そんな市場でカスタマーから選択され競争優位を保ち続けるには、需要側の視点で価値あるサービスプログラムを提供することが絶対条件となる。だからといって目先のサービスや口先のお世辞は賢明なカスタマーにすぐ見抜かれる。真に顧客満足の得られるサービスプログラムは、安易な妥協を許さない厳しい品質を追及するものでなければならないが、現代社会の成熟カスタマーは価値を見分ける能力を備えているから、供給者は謙虚に需要者の選択能力に従うべきだろう。
IT時代の情報開示社会は益々もって需要者の選択能力を高め、あらゆるものの真価が問い直される時代になっただけに、供給者の一層の研究と工夫が必要とされる。