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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第三章 インストラクション
Section 3 トレーニングプログラムとエクササイズ

『NGFインストラクターズガイド 基礎理論編』によれば、トレーニングは体力・技術・意思・戦術・理論の五種類あるが、一般にトレーニングプログラムというとストレッチや筋力アップの体力トレーニングを考える人が多いようだが、本来ゴルフに最も必要なのは技術のトレーニングである。
技術のトレーニングプログラムというと打球練習を考える人が多いが、打球練習はトレーニングの一部に過ぎない。ゴルフは2秒以内のスイングが全てと考えている人にとって打球練習こそトレーニングの全てと思うかもしれないが、球数を打てばよいというものではない。休日の練習場で朝から夕方までドライバーの練習をする人は多いが、有効なトレーニングプログラムとはいえない。
ゴルフが距離と方向のターゲットゲームであることを考えれば、常に「何ヤード先の何処」とターゲットを定めて打球練習しなければトレーニングにならない。またゴルフはOBかアンプレアブル以外、打ち直しのできないゲームであることを考えれば、一球一球狙いを定めて真剣に打たなければトレーニングにならないが、ほとんど「打ちなおしの練習」か「ミスショットの練習」をしている人ばかりである。
練習場の打席はフラットでスクウェアな条件に設定されているから、ほとんどの人が力一杯のフルスイングで練習をしている。コースではティーインググランド以外にフラットでスクウェアな状態はありえない。トレーニングプログラムは実戦に有効な基本技術をマスターし、高い確率で実戦に応用できるテクニックを養うものでなければならない。ビジネスインストラクターはカスタマーに対して「プログラム」というサービス商品を提供し「上達」という顧客満足が得られなければプロフェッショナルとして生き残ることはできない。プロフェッショナルが用意するトレーニングプログラムは顧客満足という結果が出せるサービス商品でなければならない。

体力トレーニングプログラム

ゴルフは生涯スポーツといわれるだけに特別な体力を必要としない。一日10kmを疲れを感じないで歩ける体力と、300gのクラブを2~300回振る筋力があれば充分で、国体やオリンピックに出るようなトレーニングは必要ない。プログラムとして年齢性別を問わず時速4kmで歩くウォーキング・トレーニングは必要だが、ジョギングは必ずしも必要とされない。
ゴルフは沈着冷静な判断を要するし呼吸を整えるターゲットゲームであるから走らない方が良いとされる。またゴルフスイングには跳躍という動作はなく、跳ぶことも跳ねることも禁物とされていることから、ジョギングよりウォーキングの方が好ましいといわれている。特に日常生活に走る習慣がない人や中高年者の場合には、急に走ることによって膝の関節を痛め、ゴルフそのものができなくなる恐れがある。また若いプロのスイングを見て大きく力強いスイングを覚えようとして、腱鞘炎を起こしたり肋骨を折ることも珍しくない。
ゴルフの場合には体力トレーニングが逆効果になることが多いだけに、トレーニングメニューは慎重に選択しなければならないが、ゴルフにとって必ず必要なことは最初から一定の歩行スピード(時速4km)で歩く習慣と、一定のスイングスピード(2秒以内)でスイングするトレーニングであろう。
歩行テンポとスイングテンポは密接に関係するといわれるだけにセットメニューにすることが有効と考えられる。一般ゴルファーの80%近くが「早打ちスロープレーヤー」といわれる理由は、歩行が遅くてボールに辿り着くのに時間が掛かるタイプと、左右に曲げてグリーンに辿り着くのに時間が掛かるタイプがあって、いずれもアドレスルーティーンに掛ける時間的余裕がない人たちである。
自分のテンポで歩き自分のテンポでスイングすれば、常にマイペースでプレーすることが可能になり、このことをプレーのリズムとかハーモニーと表現することもある。体力トレーニングのプログラムとしてウォーキングの他にストレッチ、アイソメトリック、太極拳、水泳、自転車などが利用されるが、最高のトレーニングは素振ともいわれている。

技術トレーニングプログラム

ゴルフの基本技術はセットアップ、フルスイング、コントロールスイング、
ゴルフの実践技術はショット、パット、アプローチ、チャレンジ、トラブルに分類する方法がある。

基本技術プログラム
(1) セットアップ ルーティーン、スクウェア、GASチェック
(2) フルスイング 8種スイングドリル、スイング6原則、飛球法則
(3) コントロール イメージクロック、チョークアップ、オープン
実践技術プログラム
(1) ショット ティーショット、フェアウェイ、アンイーブン
(2) パット ロングパット、ショートパット、アンジュレーション
(3) アプローチ ピッチ&チップ、ロブショット、バンプ&ラン
(4) チャレンジ インテンショナルドロー&フェード、ハイ&ロー
(5) トラブル バンカーショット、ラフショット、リカバリー

 

これらの技術項目にはそれぞれトレーニングプログラムがあり、ひとつひとつ学習・練習・演習を繰り返してマスターさせるが、このとき指導するに当たってティーチング&コーチングが重要な役割を果たす。学習とは各技術の概念、定義、目的、方法、効果などを明確に理解させることであり、練習とは各技術を反復実習することによって身体に馴化させることであり、演習とは実戦に即した応用力を養成することである。

3D(三次元)システムトレーニング

上記のテーマに対して学習・練習・演習の三局面をシステマティックにトレーニングする方法を3Dシステムトレーニングという。学習局面でしっかりしたティーチングが行われていないと、中途半端な理解や誤解に基づいて練習することになるから中途半端な技術や間違った技術を馴化することになる。馴化とはある技術を身に付けることだから悪い癖を付けることも意味する。俗に「ヘタを固める」という言葉があるが、我流が最も陥り易い落とし穴といえよう。我流による指導も指導員自身が落とし穴に落ち、生徒も巻き添えにすることになるから誠に不幸なことである。ワイレン博士が指摘した「生徒と指導員の間に起こる無用の混乱」に他ならない。
学習局面でしっかりした基本理解ができていれば練習局面で無駄や迷いがないだけに馴化が早いうえ上達も早い。練習とは基本技術を馴化させ、正確な反復再現性を養うことであるから誤解や迷いは大敵で、確信を持って練習することこそ大切である。
練習によって身に付けた技術は、即実戦で役立つわけではない。「畳の上の水練」とか「練習場シングル」という言葉があるとおり、練習で身に付けた技術は実戦局面ですぐ役に立つものではない。そこで練習局面の次に演習局面に進み、実戦を想定したトレーニングを行う。
ゴルフゲームの特性としてショット毎に状況や条件が異なることと、打ち直しができないことがあげられる。軍隊では新兵に対して実弾演習を行うが、実戦で砲弾の炸裂音を聞くと腰を抜かして全く戦争にならないからという。ゴルフでも同じようなことがいえ、練習で身に付いたはずのショットが、実戦では一発も出なかった話はいくらでも聞く。実戦ではショット毎にライや風の状況、ターゲットの方向と距離が異なるから、演習局面では実践を想定して一球毎に状況と条件を変えてショットする。もちろん実戦では打ち直しができないから、次のショットも状況と条件を変える。
演習のことをエクササイズというが、これを現実に実行するには本人の自覚と確かなコーチングを必要とする。演習をマンツーマンで行うことはお互いに忍耐が要ることで、演習こそグループで行うと楽しく盛り上がることは米国の多くのゴルフコーチが語る。このように学習・練習・演習を三次元でトレーニングすることは最も科学的な方法といえよう。特にインストラクションの立場で考えればシステムトレーニングは必須条件と考えなければならない。

ステップアップ・スパイラル

現代ではティーチング&コーチングというよりトレーニング・マネジメントと表現する方が適切だろう。ティーチングは理解を助けコーチングは実力を付けるインストラクションであるが、指導する側のモチベーションは窺えるものの、指導される側のモチベーションは一向に見えてこない。技術の習得にしろ目標の達成にしろ、本人の自覚やモチベーションがなくては指導者の空回りに終る。ティーチング&コーチング概念には指導者側の一方的指導論という生徒不在の姿が窺えるのである。指導者が熱心に完璧な指導をしても、生徒が上の空では目標も目的も達成されず意味を成さない。
これに対してトレーニングマネジメント概念は生徒が最高パフォーマンスを発揮するための管理システムづくりであるから、主体はあくまで生徒自身である。生徒の主体性がなければマネジメントそのものが成り立たない。生徒が主体となる3D(三次元)トレーニングを活用したマネジメントシステムにステップアップ・スパイラルがある。
ステップアップ・スパイラルシステムとはPlan-Do-Seeのマネジメントサイクルと同様に学習(Study) - 練習(Practice) - 演習(Exercise) を螺旋階段を昇るように繰り返すレーニン方法をいう。
経営のマネジメントサイクルでは、目標や標準を設定し、高い経営効率や生産性を目指して継続管理するシステムを構築する。より高い目標や標準を目指して進化するマネジメントサイクルは同じことを繰り返しているようで、実際は螺旋階段を一段ずつ昇っていく地味な努力を継続する姿である。経営のマネジメントサイクルと同様に、ゴルフトレーニングにおいても学習・練習・演習の三局面をリサイクルしながらプレーヤーの技術向上や能力開発を図るシステムをいう。
何の目的方針もない反復打球練習は打球感覚を養うだけで実戦力が伴わない。学習局面で練習の目的や方法を事前に研究し、練習局面では目的に叶った方法で反復練習して目的の技術を身に付ける。演習局面では実戦状況を想定して緊張感の中で一発必中のトレーニングを行う。
打ち直しが許されないゴルフでは、目標を定めた一発必中トレーニングこそ実戦力を養う。巧くいった場合はステップアップし、巧くいかなかった場合はフィードバックして学習局面に進み、原因や結果を検証することが大切である。このようなマネジメントリサイクルを地道に繰り返すトレーニングによって技術や能力は一段ずつ向上し、気が付けば驚くほど高いポジションに到達する。

エクササイズ

実戦状況を想定してトレーニングすることをエクササイズという。エクササイズとプラクティスの違いは、プラクティスで馴化した(身に付いた)技術を実戦に適用するトレーニングがエクササイズである。多くの場合、漠然と打球練習して漠然と終るが、数打った打球のうちナイスショットだけを記憶に留めようとしても潜在意識はミスショットも全て記憶している。同じショットを繰り返すうちに段々成功確率が高まり、ナイスショットの記憶が鮮明になった段階からその技術は馴化したと考えられる。この馴化したと思われる技術を実戦に適応するトレーニングがエクササイズである。
エクササイズはプラクティスと目的が異なり、明確なターゲット意識を持っていなければならない。つまり何ヤード先の何処にボールを運ぶというターゲット意識である。実戦では弾道の良し悪しは第二義で、ターゲットを捉えることが第一義である。素晴らしい弾道を追い求めて常にターゲットをはずし難しい状況を生み出す人、飛距離に拘り頻繁にOBを打つ人は、ゴルフゲームの意義を勘違いして本末転倒しているゴルファーである。しかし人間の性は「素晴らしい弾道を打ちたい」「飛距離を誇りたい」という欲望を容易なことでセーブすることができない。インストラクションの役目は本能や性をセーブし、己をコントロールする習慣をつけることにある。人生と同じように実戦は常に結果を求めるか、プロセスを大切にするかの選択に悩まされる。
ドライバーで目のさめるようなティーショットを放つか、スプーンで安全にフェアウェイにボールを運ぶか。林の中からリカバリーするのに前方の狭い空間を抜くか、安全に横に出すか。デッドにピンを狙うか安全にレイアップするか。ウェッジでアプローチするかパターで転がすか。実戦は常に悩ましい選択を迫ってくる。
エクササイズではこのような状況を想定して失敗確率と成功確率を冷静に見極める習慣を身につけなければならない。多くの人は練習局面で、このような厳しい状況に自らを置くことを好まない。インストラクションでは、生徒やカスタマーが自発的にやりたがらないことをサービスプログラムとして提供することに意味がある。勉強嫌いにeラーニングの楽しさを教える、運動嫌いにトレーニング効果を堪能させる、練習嫌いにプラクティス効果を実感させる、実戦に弱い人にスコア結果を出させる。エクササイズは他人に強制されないと、なかなか自発的にできない性質のものだが実行すれば必ず成果が望める。

シミュレーション・システム

近年、最先端技術を使ったバーチャルゴルフのシステム、つまりシミュレーションゴルフが世界中で盛んになってきた。バーチャルシステムは軍隊演習、医療手術、レーサー、パイロットなど命懸けの職業訓練から開発されてきたものである。限りなくリアルステージに近いバーチャルステージをつくり、真剣なエクササイズを行うことによって実践力を養うシステムである。
シミュレーションゴルフを使ったエクササイズは益々盛んになり、今後はトレーニングの主流をなすだろう。しかしながらリアルステージとバーチャルステージのギャップは簡単に埋められるものではない。バーチャルトレーニングの効用と限界を見極めることは、トレーニングプログラムの開発やエクササイズの方法を研究するうえで、重要な課題になることは間違いない。リアル&バーチャル・トレーニングシステムを確立することは本章のテーマを超えて、トレーニングのイノベーションを起こすほど興味深いテーマなのである。この領域に先鞭をつけたものは、必ずゴルフビジネスの世界で成功を収めるだろう。