- ゴルフ経営原論
- 目 次
- INTRODUCTION
- 第一部 ゴルフビジネス
- 要 綱
- 第一章
マーケティング - 第二章
プロモーション - 第三章
インストラクション - INTRODUCTION
- -1 指導局面における
ティーチング&コーチング - -2 スクール指導における
グループレッスンの重要性 - -3 トレーニングプログラムと
エクササイズ - -4 データクリニックと
トレーニングメニュー - -5 クラブサークルの
組織計画と運営 - -6 ジュニアスクール&クラブ
の計画と運営 - 第四章-1
経営マネジメント - 第四章-2
施設マネジメント - 第五章
ビジネスポリシー - 第二部 ビジネスマネジメント
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ経営原論 第一部 ゴルフビジネス -
Section 5 クラブサークルの組織計画と運営
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IT社会に象徴される現代社会は、アノミー現象といわれる組織や秩序の崩壊によって益々個人が孤立してきた。個人が権利を主張し自由を追及し始めると、人と人の絆が損なわれて家族が断絶し、組織の秩序が乱れて家庭や社会が崩壊する。その結果、孤独に耐えられなくなった多くの人々が自殺する。100年前にフランスの社会学者エミール・デュケールが心配した社会に暮らす私たちは、新たな人の絆を養う組織、つまりコミュニティを育てなければならない。コミュニティとは生まれたときから宿命付けられた組織や、生きるために選択の余地のない社会ではなく、自発的な自由意志によってつくられる組織社会をいう。
クラブやサークルはその典型で、ゴルフ愛好者や良き仲間たちが集まってつくられるクラブサークルもそのひとつである。18世紀スコットランドに始るゴルフクラブはゴルフ発展の原点であって、ゴルフはクラブ組織を基盤に世界中に広まった。ゴルフの大衆化はクラブ組織を離れて大衆ゴルファーを生み、現在では約80%が所属クラブを持たないノンメンバーゴルファーとなっているが、これも一種のアノミー現象かもしれない。
別な観点から見ると、ゴルフ場のクラブ組織が衰退減少した理由として、米国では高い年会費制度が考えられる。平均年会費5000ドルは家族全員に会員資格があるとはいえ、いささか家計負担が重過ぎる。また独身者や子供のいない家庭にとっては一層負担が重い。このような理由によって米国のプライベートコースは徐々に減少してきたようだ。日本では投機証券化した高額会員権制度によってクラブ組織を維持してきたが、価値の大暴落によって制度基盤そのものが崩壊してしまった。同じ制度のもとでは二度とクラブ組織が復活することはないだろう。
新たなクラブサークルは地域コミュニティやネットコミュニティとして新生するものと考えられる。ただし新生コミュニティは従来とは異なったファクターによって構築されるだろう。例えば地域には定年退職して年金生活に入った健康老人がたくさんいるが、境遇を同じくする者同士がゴルフを共通の趣味としてコミュニティを形成し、余生を健康で楽しく暮らそうとするサークルが誕生してきている。またネット上には未だ会ったこともないゴルファー同士が話題や関心を共通ファクターとしてネット上で組織されている。このように従来と異なった共通因子によって再編成されるコミュニティのうち、ゴルフを共通因子とするコミュニティがクラブサークルに発展することが期待される。
ファミリークラブ
夫婦・親子・孫の三世代が一緒にゴルフを習うことを共通因子にクラブサークルを形成する方法がある。米国では祖父がメンバーになっているゴルフクラブに子供や孫が同伴してゴルフを教えてもらい、一緒に楽しむ文化がある。従来は殆んどのゴルファーが父親や祖父のクラブでゴルフを習い、友達をつくり結婚相手まで見つけていたようだ。ゴルフを通して礼儀作法を身に付け社会訓練も受けていたから、教会と同じように立派な地域コミュニティの役割を担っていたことが分かる。
近年、完全な会員制ゴルフクラブが減ってパブリックコースが多くなってきたが、果たして同じようなコミュニティが形成されるか未だ分からない。日本には昔からこのような文化は全く育っていない。日本の殆んどのゴルフクラブは、個人会員による記名出資金によって設立され、市場に会員権相場が成立していて、退会時は出資証券を売却して資金回収を計る仕組みになっている。そのために会員同士の絆が比較的希薄で、ゴルフ仲間以上のコミュニティにまで発展していない。ましてゴルフウィドウという言葉が流行ったように、家族をクラブに同伴する習慣もシステムも全く育っていない。現在に至っても日本のゴルフクラブの殆んどが、プレーヤー以外は場内立入禁止となっている。
このようなゴルフ環境の中でファミリーゴルフのクラブサークルを育てることが果たして可能か甚だ疑問だが、方法によって充分可能と思われる。環境以前にそのような風潮が醸成されてきていることも見逃してはならない。若いスターが親子師弟関係によるファミリーから続々と誕生したことは大きな要因だが、少子化時代にあって少ない子供を大切に育てようという社会風潮も充分後押ししていると考えられる。
ゴルフビジネスの観点からすれば潜在カスタマーやニューマーケットが育ってきていることを敏感に感じ取ることが大切である。ファミリーは週末休日には遠征することができるが、平日は近辺で行動する。現代のコミュニティはケイタイやメールをコミュニケーションツールとして使っているので、リーダーがいれば近隣ファミリーにも簡単に連絡が取れる。活動場所は近隣の練習場やスポーツクラブ、公民館や学校なども利用できるはずだが現状では必ずしも理解が得られていない。『NGFインストラクターズガイド』には体育館やグランドを利用したトレーニング方法や安全配慮が紹介されているので参考にすると役立つだろう。
エリアサークル
郊外の練習場は既に養老院の様相を呈している。高齢者に残されたスポーツはゴルフだけという声をよく聞くが、定年退職して自宅生活が始った途端に近隣に友達も遊び仲間もいないことに気が付いて愕然とした、という声は更によく聞く。団塊の世代から始る高齢者マーケットは殆んど放置されたままで、未だ誰もクラブサークルやコミュニティに育てていないようだが、難点もいくつか指摘されている。
定年退職した高齢者の多くは日本の経済成長期を牽引してきた社会や職場のリーダー経験者が多く、それなりに厳しい競争社会を生き抜いてきた人たちである。定年退職して突然今日から家庭や地域の住人になろうとしても、新しい生活環境になかなか順応できないで戸惑っている場合が多い。永年にわたって組織人間として生きてきた人が、急に地域住民になることは想像以上に難しいことなのだ。朝起きても出勤する会社も仕事もない。簡単な身の周りのことが自分でできない。雑用を命令しても誰も言うことを聞いてくれない。外出しても近隣住民の顔も名前も分からない。散歩に連れて行った飼犬の方が遥かに知人や仲間が多い。地域住民として生活することは地位・身分・役職・肩書・権限など過去の栄光が一切通用しない平等社会を、一人の人間として謙虚に生きることに他ならない。妻も子供も孫もこの地域平等社会を生きることに慣れているが、組織階級社会からの移住したオヤジだけが孤立して戸惑っているのである。地域平等社会の掟に逆らえば「糞オヤジ」「馬鹿オヤジ」「駄目オヤジ」の烙印を押されて相手にされなくなる誠に厳しい社会といえる。
地域高齢者を組織してコミュニティ化、クラブサークル化することは果たして可能だろうか。課題も多いがニューマーケットの期待も大きい。
世代特性
ジェネレーションとして年齢区分するとすれば30歳未満の青年層、60歳未満の壮年層、60歳以上の老年層という大区分が考えられる。一般的に30歳未満は若者で社会経験が乏しく職業経験も浅い半社会人世代。30歳から60歳までは責任ある仕事が生活の中心をなす社会人世代。60歳以上は社会や仕事の第一線を退いた退職世代。
30年刻みで捉えると、トレンドといわれる時系列に概ね当てはまるが、その動きは人間の目で捉えることができないほど遅い。しかし世代特性として捉えると明確な異変や差異を感じ取ることができる。青年世代は未だ何者でもない人も、あらゆることに無限の可能性を秘めており、精神的には不安定だが肉体的には自信を持っている。経済的な裏付けは殆んどない。壮年世代は自分の家庭を築き、自分の仕事を見つけてプロになろうとしており、肉体的には充実してくるが肉体的には限界を感じ始めている。経済的裏付けができるに従って生活は繁忙を極める。老年世代は第二の人生を歩むものと老境に入るものがあり、精神的には安定しても肉体的には衰えを痛切に感じている。年金生活者が殆んどで経済的には比較的安定している。
時代や社会のトレンドから見ると青年世代は組織や社会に対する帰属意識に乏しく自己主張が強い。家族・友人・学校・会社・社会・国家など異質な組織とどのように係わたったら良いか分からず戸惑っているのが実状で、意思に反して逆らったり反発することも多い。どのコミュニティにも馴染めず孤立することも多い世代である。壮年世代は組織や社会に対する帰属意識が芽生えて協調性が伴ってくるが、その反面、段々自分がなくなり組織や社会に迎合して生きるようになってくる。孤立することは少ないが、理念や理想を失なって惰性や孤独に陥りやすく、宗教・組合・協会・研究会など生活価値感を共有できるコミュニティに帰属する人が多くなる世代である。老年世代は組織や社会から解放され自分の世界を取り戻したい、抑圧されてきた自分の理念や理想を回復したいと強く願うが、年齢や環境が容易にそれを許さず、新たな生活環境やコミュニティになかなか馴染めずに人生の悲哀を感じる世代である。
このように各世代固有の特性があって、コミュニティを形成しようとしても何処に共通価値感や絆を求めたら良いか大きな課題が横たわる。
ゴルフの特性
あらためてゴルフが生涯スポーツといわれる理由を考えると職業・技量・性別を超えジェネレーションギャップを超越して、共に楽しめることが思い浮かぶ。
ゴルフのクラブサークルをひとつのコミュニティにする場合、そこには<ゴルフの基本精神>という共通価値感あるいは暗黙の掟が存在すれば、組織の秩序と健全性を維持しようする力が働く。ゴルフ固有の価値観はアノミーを引き起こす根本原因とみられる個人の権利や自由の主張を悉く否定する。このゴルフ固有の価値観によって統治されるコミュニティには、ゴルフ以外の世俗的な価値感を持ち込む隙はなく、純粋なゴルフクラブとして組織の運営も秩序の維持もキャプテンの統率の下に、全てゴルフの基本精神に則って司られる。
ゴルフの基本精神がキリスト教騎士道精神とジェントルマンシップにある以上、個人の我がまま身勝手が付け入る隙がない。それゆえに多くの組織やコミュニティが抱える「秩序の混乱と崩壊」を未然に防ぐだけでなく、現代人が心の奥底で求めている「献身」「忠誠」「誠実」「寛容」「謙虚」など人間が潜在的に備えている善なる部分が、遠慮も気取りもなく自然に表現されてくるのである。
何か問題や不祥事が発生するたびに、キャプテンは「ゴルフの基本精神に戻れ」と忠告するだけで全て自主的に解決する。ゴルフの特性によって、従来見られなかった素晴らしいクラブサークルが誕生するに違いない。クラブキャプテンやリーダーは姑息な手段を用いず、毅然として「ゴルフの基本精神」を貫くことである。クラブサークルを運営するに当たってポリシーを明確にすることこそ最高の戦略となり戦術となるだろう。
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