- ゴルフ経営原論
- 目 次
- INTRODUCTION
- 第一部 ゴルフビジネス
- 要 綱
- 第一章
マーケティング - 第二章
プロモーション - 第三章
インストラクション - INTRODUCTION
- -1 指導局面における
ティーチング&コーチング - -2 スクール指導における
グループレッスンの重要性 - -3 トレーニングプログラムと
エクササイズ - -4 データクリニックと
トレーニングメニュー - -5 クラブサークルの
組織計画と運営 - -6 ジュニアスクール&クラブ
の計画と運営 - 第四章-1
経営マネジメント - 第四章-2
施設マネジメント - 第五章
ビジネスポリシー - 第二部 ビジネスマネジメント
THE GOLF FUNDAMENTALS
- ゴルフ経営原論 第一部 ゴルフビジネス -
Section 2 スクール指導におけるグループレッスンの重要性
-1 | 指導局面における ティーチング&コーチング |
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学校体育や民間教室のスクール指導は複数の生徒が集団で習う場面をいうが、集団で習うことを即グループレッスンとは言わない。またマンツーマンレッスンとグループレッスンは単純に対比できるものではない。
グループレッスンの概念は学習心理学のグループダイナミックス理論から考案された優れた指導法のひとつで、マンツーマンレッスンよりも学習効果が高いといわれている。1960年代にNGFは全米の学校体育授業にゴルフを導入するため、教育プログラムの開発に着手しているが、指導マニュアルにグループレッスンの重要性が強調されている。
参照:
ゴルフ基礎原論 / 第一部ゴルフゲーム : 第二章 セオリー
本来学校教育は全てグループレッスンで構成されているから、ゴルフ指導だけ特別グループレッスンを強調する必要はないと思うが、実は大きな理由がある。通常は学校教育に導入される科目は基本や原則が確立されていることが大原則で、確立されていないものは授業に取り入れることができない。なぜならば性格や能力において千差万別な生徒に対して万人普遍の基本や原則を指導しなければ、民主教育の大義が成り立たないからである。
ところがゴルフは長い間、経験や勘に基づく徹底した個人競技として発展してきた経緯があるだけに、指導者側に基本や原則の概念が存在せず、指導者自身の技量経験に依存しなければならなかった。従って基本や原則が定まるまでは、ゴルフの技量経験の乏しい体育教師にとってゴルフを指導することは難しい課題だったのである。ところがNGFが体系的に統一された基本テキスト、映像教材、指導カリキュラム、指導マニュアルなどを開発し、科学的指導システムを確立してから教育現場に導入できる授業科目になったのである。それは基本や原則が確立したことを意味し、性格や能力の異なる生徒全員が平等に、かつ同等同質の授業を受けられる環境が整ったことも意味している。
学校教育でも民間教室でも性格や能力の異なる複数生徒が集合してひとつの科目を習うことに変わりはない。複数生徒を公平平等に指導できなければスクールとはいえず、不公平や不平等が存在すればスクールそのものが存続できずにやがて破綻する。これは民主教育の原則であって、スクールにおけるグループレッスンは全生徒に対して、均等均質の内容を提供できるものでなくてはならない。その意味でスクール指導においてグループレッスンは重要にして欠かすことのできない要件であり、マンツーマンレッスンを導入する余地はない。
グループレッスンの誤解
スクール指導の局面でグループレッスンを誤解しているケースが大変多いが、それはグループレッスンの定義を正しく理解してないことに起因する。グループレッスンは単純に複数の生徒を同時に指導するだけではなく、全生徒に対して同時に均等均質の情報や技術を提供するものでなくてはならない。
例えば10打席に10人並ばせて、端から順番にマンツーマンレッスンを進めていく指導は正しくはグループレッスンと言わない。指導員は60分指導した積りでも全生徒に対して同時に均等均質の情報技術を提供していないから、生徒は平均6分のマンツーマンレッスンを受けたにすぎない。スクール担当指導員は夢中になって60分フルに指導した積りでも、生徒の側は一人当たり平均6分の指導を受けた感覚しか持たないのである。残り54分は前打席の生徒の背中を見ながら自分ひとりで打球練習したとしか思えない。このような指導に生徒は納得も満足もしないが、他に方法がなければ自分で打球練習するより仕方がないので、自分なりに上達しようとする。その結果、我流ゴルファーと殆んど変わることなく基本知識も基本技術も理解しないまま、経験と勘によってボールを打つゴルファーに成長する。
このような正規のグループレッスンによらないスクールで習った場合には、何年通っても体系的にゴルフを理解することがないから、プレーヤーというよりはボールストライカーとして成長しても、ゴルファーとして成長することはめったにない。多くのゴルフスクールがグループレッスンの意味を知らないか、誤解した形で行われていることによってゴルフの本当の楽しさや、文化性に触れることなく終わっているのが実状である。
ゴルフスクール殆んどが練習場で開催されていることにも原因の一端はある。練習場の経営はボールを打たせることによってビジネスが成り立つから、ボールをたくさん打つ人こそベストカスタマーである。練習場は教育産業ではない。あくまでもレジャー施設産業であり不動産管理事業であるから、百歩譲ってもレジャーサービス産業の域を超えることはない。ゴルフスクールが練習場主催で開催される限りは、ストライカー養成から脱皮することは容易なことではないが、経営戦略やマーケティングの観点から見れば間違いであろう。それが証拠に、ゴルフスクールを教育事業と受け止め経営戦略やマーケティングに導入している練習場は、経営的にも永年業界トップの成功を収めてきている事実が証明している。成功を収めているゴルフスクールは、間違いなくグループレッスンに徹底して運営されている。
グループレッスンの在り方
グループレッスンとは集団でマンツーマンレッスンをすることではないと述べた。通常、学校教育の現場は全てグループレッスン方式をとっている。学校教育の現場では50人前後の生徒でクラス編成し1人の教師がクラス全体の授業を受け持つが、クラスの定員は特別決まっているわけではない。生徒の数が20名でも60名でも、私立大学の授業のように数百人に及んでも教師は一人で受け持つのが原則である。このような場合、生徒数が増えるほど授業内容が希釈されるかと言えば決してそのようなことはなく、大勢になるほど熱気をはらんで、クラス全体が高揚することがある。これはグループダイナミックス効果が現れた証拠で、少人数クラスより遥かに学習効果が現れたことを意味する。
逆に生徒が少ないためにクラスが盛り上がらないこともよくある。つまりグループレッスンでは授業内容と生徒数は何ら関係なく、生徒数が多いほうが返って授業が盛り上がって学習効果を高めることが研究報告されている。絶対条件としてクラス全員が同一テーマに取り組んでいること、相互作用として暗黙の連帯意識や競争意識によるシナジー効果が現れること、課題や項目に対する定義が明快で誤解や疑問の余地が最小限であること、教師や指導者のコーディネートがうまく常に生徒全員を学習舞台の中心に立たせることなどによって実現する。グループダイナミックス効果は、教師や指導者の技量・経験・知識が豊富なことと必ずしも関連しない。テキストや教材の進化は教師や指導者の欠点や不足分を充分に補ってくれるからである。
反対にベテラン教師が陥る過ちとして教師が舞台の中心に立って主役を勤め、生徒は脇役や観客になって一人舞台となったために、グループダイナミックス効果が現れないことがある。大学の看板教授の授業を出席生徒の半分以上が居眠りして聴いている光景である。グループダイナミックスのエネルギーは、生徒ひとり一人のモチベーションと参加意識から生まれるものである。
このようにグループレッスンは生徒数に関係なく、生徒全員が同一テーマについて同一内容の情報提供を受け、同一時間を学習練習したことが相互に確認できるものである。そのうえグループダイナミックス効果によって、大勢で学習し練習したことが仲間意識や共通理解を生み、共通の話題を楽しむ関係に発展することが期待される。
グループレッスンの利点
一般的にマンツーマンレッスンは指導員と生徒の間に緊張感を生む。それゆえに充実したレッスンが行われ高い学習効果が得られると理解されている。現実は果たしてその通りに行くか甚だ疑問だが、NGFインストラクターズガイドによれば、指導員と生徒の緊張関係が巧くいっている場合は良いが、巧くいかなくなると悪い緊張関係に発展し、容易なことで関係修復できなくなるという。
米国ゴルフ界においても選手とコーチのトラブルは後を断たず、なかなか良い師弟関係が築けないことを証明しているが、夫婦親子によらず師弟関係によらずマンツーマンの人間関係が難しくなった時代なのかもしれない。
それはともかく、マンツーマンレッスンは一対一の人間関係であるのに対し、グループレッスンは一対数十の関係で、両者の間に生まれる緊張関係も数十分の一に緩和される。これはお互いの精神的負担を軽くするために、些細なことで神経質にならずに済むという利点があるという。果たして本当にそうか現実を厳しく検証しなければ断言できない。特に商業サービススクールの現場には、学校教育現場に見られない厳しい現実がある。
商業サービススクールは中年女性を中心に有料カスタマーが生徒として参加しているため、消費者意識によって均等均質のサービスを要求してくる。求めるサービスが得られなければ容赦なく購買拒否によって指導員の変更や代金の返還を求められる。教育マーケットもサービスマーケットも供給者(学校)が需要者(生徒)を選択できる時代から、需要者が供給者を自由に選択できる時代に変わった。このような時代にあって商業サービススクールは、生徒に選択される条件のひとつとして、グループレッスンの利点を最大限に活用し、カスタマーである生徒に充分な顧客満足を与えるサービスプログラムに品質を高めなくてはならない時代である。
商業サービススクールではマンツーマンレッスンの欠点を補いつつグループレッスンの利点を最大限に生かした、高度な指導システムとカスタマーサービスが要求されるようになったといえよう。
eラーニングの時代
インターネット学習の時代に入って、グループレッスンの概念も変化を求められるようになった。グループの概念が特定多数から不特定無限多数に拡大され、時間空間の障害も取り去られてしまったのである。
オンデマンドeラーニングの概念は従来の教育学習概念に革命的変化をもたらそうとしている。従来の教育学習と決定的に異なるのは、特定集団の連帯意識や人間関係がなくなり全員が教師対生徒のマンツーマン関係になることで、グループダイナミックス効果は働くものか、あるいは形を変えるものか現段階では分からない。
グループダイナミックス効果が働かないとしても、グループレッスンの要件はいくつか満たしている。まず全員に均等均質の情報が提供されることに関して100%満たしているし、教師から生徒個人に厳選情報が平等に直接伝達される。生徒が必要を感じれば同じ情報を何度でも復習することができる。グループ全体のレベルを下げることなく効率的に学習効果を高め、生徒個人の費用負担を軽くすることができる。視点を変えれば時間空間の障害がなくなることによって、従来では思いもよらぬ爆発的なグループダイナミックス効果が働くことも考えられる。
例えば地域限定の教育システムが一気に世界同時システムに拡大するし、時間限定の教育システムがフリータイムシステムに変わる。そうなると従来のグループレッスンが不要になるか限定されると思うかもしれないが、決して不要になる訳ではない。なぜならば、人間の営みは永遠にリアルステージのアナログ行為であることに変わりがないから、バーチャルな学習や練習はあくまでリアルな実習や体験を補助支援するものに過ぎない。
例えばバンカーショットについてeラーニングで100回学習したからといって、コースで巧くいく保証は全くない。現実は泣き出したくなるような状況に陥るだろうが、eラーニングは無駄かといえば全くそうではない。3Dシステムによるeラーニングは高度なイメージトレーニングでもあるから、リアルステージに立ったときこそ学習効果が発揮される。コースレッスンやコース実習では事前に充分なeラーニングやイメージトレーニングが行われていれば、リアルステージで行われるグループレッスンはより効果的かつ実践的に発展するだろう。
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