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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第五章 ビジネスポリシー
Section 3 余暇事業としてのゴルフビジネス

第二次大戦後の経済復興と繁栄は多くの国々の人々に経済的・時間的余裕をもたらし、余暇の善用という新たな課題をも提起した。中国故事に「小人閑居して不善をなす」という諺があるが、余暇は健全に使われることより不健全に使われることの方が多いという意味で、余暇を善用するためにレジャービジネスが生まれた。
戦争中は生きるに精一杯の暮らしを、戦後は食べるに精一杯の暮らしを強いられた多くの人々は、余暇をスポーツや旅行などに費やすようになったが、ゴルフもそのひとつである。ゴルフは典型的な上流社会のレジャーとして羨望の的となり、経済成長期にはステータスシンボルとしてレジャービジネスの頂点に上り詰めた。繁栄を誇っただけに崩壊の勢いも凄まじく、その後惨憺たる状態に陥ったことも否定できない。余暇事業としてのゴルフビジネスは本来どうあるべきか、基本や原則に戻って検討してみよう。

戦後の余暇

余暇は生産性の向上や社会の発展のよってもたらされた余裕の産物であるから、基本的に余裕を楽しむものでなければならないはずだ。戦後復興著しかった経済発展期の余暇には全く余裕がなく、日常の慌しさがそのまま余暇に持ち込まれて実に慌しいレジャータイムを過ごしたものである。海外旅行に行けば一週間に10箇所以上の観光地を訪ね、早朝ホテルを出発して深夜に帰還し、翌朝また早く移動して観光地巡りをするといった具合に、後半は疲労と睡眠不足で頭が朦朧とするような旅であった。なぜそこまでするか不思議に思うかもしれないが、そうしなければCS ‐Customers Satisfaction‐ 顧客満足が得られなかったからである。
ゴルフをするにも同じように慌しかった。星の降る明け方に自宅を出て、同伴者の家を一軒一軒回って仲間とバッグを乗せてコースに向かう。1ラウンドハーフ回って風呂に入り、夕食を済ませ宴会をして朝と反対のコースを一軒一軒回り仲間を送り届けて帰宅する。クルマをガレージに入れて空を眺めれば星の輝く深夜であった。これは顧客満足ではなく自己満足であるが、空を眺めて休日を思う存分堪能したことを味わう至福の時であった。
1992年日本ゴルフ学界世界フォーラムが開催された折、アトラクションとして外国招待者に日本のゴルフを体験してもらった。朝6時新宿のホテルを出発し千葉県習志野カントリークラブに向かう。全員コースフロントでビジターのチェックインを済ませ、ロッカールームで着替えてキャディーマスター室前に集合する。キャディーと挨拶を交わして午前中9ホールを回り、1時間少々の昼食を済ませて午後9ホールを回りプレーを終える。全員風呂に入って着替えを済ませ、表彰パーティーが始まる前に一人3万円ずつ渡されフロント清算を体験する。清算後1時間半のパーティーを終えてバスに集合し、クラブハウスを出発した時には7時を過ぎていた。ホテルに到着し解散した時間は午後9時を過ぎていたが、外国招待者にとって全てが驚きであり生涯に一度の貴重な体験となった。今となっては聞いただけで疲れる話であるが、当時のレジャータイムの過ごし方はゴルフにおいても、実に慌しくエネルギーの要ることであった。

余暇の意味

余暇とは本来、労働と労働の間にある時間的空間を指すが、休憩時間でもなく失業期間とも異なる。安定した生活の中に生まれた一定の余裕時間でなければならないが、その過ごし方は時代により社会により、また人により異なる。通常は就職活動中の空白時間や定年退職後のサンデー毎日を余暇とは言わない。しかし本当にそうだろうか。就職活動中や定年退職後は人生の余暇と考えるならば本人にとって極めて大切な空白時間である。
余暇を労働していない起床活動時間と考えるならば生涯労働時間の6倍の時間を有している。この非労働時間である生活時間を余暇とすれば、この余暇を充実させることが人生を豊かに過ごすことになりはしないか。公園で読書に耽ること、散歩すること、深夜インターネット学習すること、家族でゴルフすること、仲間とコースロビーで過ごすことなど余暇を充実させる手段はいくらでもある。余暇を経済的余裕の産物と考えるのは大きな間違いで、経済性とは何ら関係ない非生産時間そのものを指すとも考えられる。そうすると余暇ビジネスは生活時間全般に係わる広い領域に及び、一人で静かに過ごす時間も家族や仲間と過ごす楽しい時間も余暇ビジネスの対象になる。
なぜゴルフ場をカントリークラブといったりゴルフ倶楽部というか、全てそのような時間を過ごす場として提供されるからである。外国のクラブハウスにはプレーをしないカスタマーがたくさんいる。朝からトランプやチェスをしている人、丸テーブルを囲んで談笑している人たち、練習グリーンで黙々とパットする人など充実したときを過ごしている。
北欧のような転職失業中の生活を保証している国では、リクルート期間が貴重な余暇であり新しい人生に向かって気力や能力の充実を図る時間に費やされている。この余暇時間を充実させるビジネスを余暇事業と定義するならば、ゴルフビジネスはトップクラスにランキングされるのではないか。米国・豪州・カナダあるいはゴルフメッカのセントアンドリュウスでは、年金生活者や失業者が楽しそうにゴルフをしている。1000円ばかりの小遣とサンドイッチをもって終日仲間たちとゴルフを楽しむ姿は実に羨ましい余暇の過ごし方と思えるが、これこそ余暇事業として理想の姿ではないか。子供や孫が休みの日には一緒に練習しゴルフをしている姿を見ると、豊かな福祉国家の在り方を示唆している気がする。

非日常的な余暇

近くのゴルフ場で家族や仲間と楽しいときを過ごすのは日常的な余暇の活用だが、ゴルフツアーに行ったりゴルフトラベルを楽しむのも非日常的な余暇の利用に当たる。神経をすり減らす日常業務から解放され、週末を緑のコースでゆっくりと寛ぐ姿に生活の豊かさを感じない人はいない。またそのような生活を理想と考えている人は多いはずだが、日本のコースでそのような姿を余り見かけないのはどうしたことか。
日本のゴルフビジネスが余暇事業として機能しているかどうか考えたとき多くの疑問が残る。コースにカントリー倶楽部またはゴルフ倶楽部の名称を付しながらクラブ性が機能していなければ、本来の余暇事業の目的を充分果たしていないことになるが、余暇事業としてのポリシーが不明確であることの現われとも考えられる。
余暇時間を有益に過ごすための場や空間を提供することが事業目的であるならば、そこに必要ないくつかの条件があるはずだ。気軽に頻繁に行けること、一人でも寛げること、余り干渉されないこと、家族や友人を連れて行けること、ゴルフをしない人も歓迎されること、経済的に負担が軽いこと、時間の制約が少ないことなど利用者側からの要望はいくらでもある。そのことごとくが供給側の規制によって拒まれているとすれば余暇事業としてのポリシーが問われなければならない。余暇事業と一口に言っても、事業形態によって経営方針や経営内容が異なるが、少なくとも人々の余暇生活を潤し豊かにすることに貢献できなければビジネスとしても成功したとはいえず、この考えこそ余暇事業のポリシーではないか。
余暇事業としてのゴルフビジネスにおいても、余暇を利用してゴルフをすることが人々にとって楽しみであり喜びであるならば、ゴルフは人々の人生や幸福に貢献したことになるが、人々の人生や幸福を破壊するものであるならば、基本的に何かを間違ったことになる。余暇事業の根本的ポリシーは健全であること、福祉や幸福に繋がること、人々を楽しく幸福にすることであって決して「小人閑居して不善をなす」環境をつくり出してはならない。

余暇のゴルフビジネス

近年メンバー制の崩壊に伴って倶楽部に所属しないノンメンバーゴルファーが増加した。米国においても日本においても全ゴルファーの80%近くがノンメンバーゴルファーとなり、家族や仲間と自由なゴルフを楽しんでいる。この人たちはネットで検索して料金内容を調べ、パブリックコースやリゾートコースを回って旅行気分を味わっている。だからツアゴルファーとかゴルフトラベラーといわれるが、情報を豊富に持っていて人によっては世界中を旅しているから、安易な受け入れをすれば容赦のない批評が返って来るカスタマーであることも承知していなければならない。つまり技量に関係なく購買力や資質の高いベストカスタマーであって、評価されれば安定したリピーターになる人たちである。
従来ゴルフビジネスに携わる人はカスタマーの判定をゴルフの技量に依存しがちであった。ゴルフが巧い人を大切に、ヘタな人を粗末に扱う習慣は長年にわたって培われており、完全にビジネスの鉄則を犯した愚かな判断といわなければならない。NGFのベストカスタマー研究によっても、時間的・経済的に余裕がある人は、必ずしも高度な技術保有者ではないことは明らかである。ゴルフスクールの生徒もベストカスタマーであるが、ビギナーとアベレージゴルファーばかりである。
余暇のゴルフビジネスに携わる人は充分な顧客分析に基づいて、何が顧客満足を与えているか研究や観察を怠ってはならない。例えば、

 

(1) ネットに充分な情報が提供されているか
(2) 予約手続きが容易か
(3) 問合わせに対する応答が親切か
(4) 予約のない来訪者を歓迎しているか
(5) フロント手続きは容易か
(6) 二人づれを大切にしているか

 

など受入れ段階でこのような配慮が必要であり、コースでは

 

(01) 練習場が整備されているか
(02) 技量に応じてティーの選択ができるか
(03) レディスティーが配慮されているか
(04) ブラインドホールはないか
(05) ボールは見つけ易いか
(06) 課罰型のハザードがないか
(07) グリーンまでの距離表示は明確か
(08) グリーン周りが難し過ぎないか
(09) グリーンスピードが速過ぎないか
(10) カップの位置が難し過ぎないか
(11) 安全ルートやボギールートが設けられているか
(12) コースレイアウトが示されているか
(13) コーストイレの位置が表示されているか
(14) コーストイレの数は充分か
(15) 途中に休憩場所があるか
(16) 案内図や案内板が整っているか
(17) 途中からクラブハウスに戻れるか
(18) ランチや飲み物が用意されているか
(19) 貸しクラブやシューズが用意されているか
(20) 軽量手引きカートが用意されているか

 

など多様なビジターを快く受け入れる体制が整っているか配慮を怠ってはならない。

 

日本の多くのコースが明確なポリシーやコンセプトを持たずに建設されているが、会員募集パンフレットには豊かなゴルフライフと本格的チャンピオンコースが謳われている。間違っても初心者・ビジターに優しいコースとは謳われていない。だから殆んどのコースが先に掲げた基本的な配慮がなされていないので、余暇事業という観点に照らして多くの課題を残すことになった。高額会員権を売るために設計されたクラブハウス、トーナメント開催を謳った競技コースは日常的にしろ非日常的にしろ、余暇の寛ぎには適さない。新しい経営ポリシーにあわせてコンセプトそのものを変えなければゴルフビジネスは難い。