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THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第五章 ビジネスポリシー
Section 1 施設事業としてのゴルフビジネス

ゴルフビジネスは施設産業として発展したとも言えるだろう。ゴルフは広大な敷地を利用し山林や原野を開拓しコースを建設するビジネスから始まり、完成後はコースを美しく管理維持するビジネスが延々と継続する。コースの建設はいつの時代も多くのエネルギーと時間費用を要するだけではなく、大きな経済リスクも負っている。ひとつのコースが完成するまでに計画段階から少なくとも3年から10年の歳月を要し、完成してからも半永久的に経営が続く。だからゴルフビジネスは施設事業を中心に成り立っていると考えられる。

建設事業

コースの建設には莫大な時間と費用がかかるが、日本と諸外国では余りにも格差がありすぎて一般論として語りにくい。日本だけでも時代によって極端な格差があって一般論は成り立たない。例えば1960年代に建設されたコースは総建設費3億円前後といわれている。
コース建設に必要な用地は20万~30万坪で買収費用は6000万~9000万円位。コース建設費は1ホール当り1000万円前後で18ホール計1億8000万円。クラブハウス建設費3000万円位だったようだ。それが証拠に現在一流といわれるコースが、当時30万円で会員募集し総会員数1200名で3億6000万円を集めていたことからも頷けるであろう。
現在の物価は当時の約10倍であるからコース建設費は約30億円が相場と考えられるが、住友グループやアコーディアが300万円で会員募集しているところをみると歴史的にみて妥当な金額なのかもしれない。ならば1980年代に新設コースの会員権価格が3000万円もしたのは一体なんだったのかという疑問に未だ答はない。そして2000年になると破綻コースの売買価格は5億円前後に、会員権償還価格は10万円前後に下落した。このように歴史的経緯を観察すると、コース建設に関する一般論や基準とは何かを語ることができないのである。これに対してUSNGFが発表してきた米国のコース建設費は30年前から一貫して6億円前後である。日本と米国では諸般の事情が違うと言われ続けてきたが、一体何が違うのかいまだに分からない。
日本と米国の経済制度は極めて類似しているが全く異なる点は土地制度である。金本位制度に代る土地本位制度といわれるほど国策によって土地は価格統制され極めて換金性が高い。だからゴルフ場は土地を利用してゼネコンと金融機関が仕組んだ金融商品であり、会員権は金融証券であったと解釈する方が分かり易い。会員権を購入することはクラブメンバーになる意味よりも、投機証券やデリバティブを購入する意味の方が強かったと解釈すれば、異常な価格推移も巨額損失を出したことも全て納得がいく。批判されるべきは金融資本に毒されたポリシーなきゴルフ場開発計画といえる。

コース経営

ゴルフ場は建設するまでがビジネスでオープンしてからはビジネスにならないとよく言われていた。つまり建設はビジネスだが経営はビジネスではないというのだ。建設には不動産取引や行政手続、土木建設や会員募集業務など多額な資金が動くから万事ビジネスになる。ところが開業するや否や、顧客サービス業として生きた人間や植物を相手に、天気と睨めっこしながら一喜一憂する割の合わない商売という意味のようだ。本末転倒した誤解も甚だしいが、現実を物語っているだけに真剣に検討し直さなければならない重要課題でもある。
本来あらゆる業種においてビジネスは開業に始まり、その後延々と継続する。従って、そのプロセスを如何に効率的に経過するかが経営マネジメントのビジネス領域となり、多くの専門家たちがそこに知恵を絞っている。ところが日本のゴルフビジネスは他のビジネスに比較して、長い間にわたり研究不足や改善不足が続いた。理由は研究し改善する必要を感じなかったからに他ならない。
1991年まで常に100%を超える需要に支えられた施設事業は供給に限界があったために、如何に断るか誰を断るかが悩みのタネだった。戦時中の配給制度や公営住宅の抽選制度と同様に、供給側に競争原理が働かなければ、そこにビジネスとしての取引は発生しないし、研究や改善の必要もない。
市場原理が働かないマーケットには怠慢不遜や癒着隠蔽の体質が蝕むことは避けて通れない。だからコース経営体質に恐るべき怠慢不遜や不正癒着がはびこったとしても何ら不思議はない。役所や公益法人には監督機関や国民監視のハザードがあるが、大部分のコース経営には殆んど監督や監視の機能がない。会員を代表するはずのクラブ理事会も大部分は経営者の御用理事会であり、経営者自身が理事長を務めるところも少なくない。多くの理事会は会員の利益擁護のためではなく、経営保護のために存在しているといえよう。本来、クラブ会員とクラブ理事会は一体のものでなくてはならないし、コース経営はクラブ理事会から経営委託された関係でなくてはならない。しかし実際は主客転倒していて、会員は理事を恐れ、理事は経営者を恐れる関係になっているので、経営者はコースを私物化し理事会は経営者に媚を売ることになる。
哀れを留めるのは莫大な出資をした会員であるが、本来なら出資した会員こそコースのオーナーでなければならないはずが、この主客転倒が仇となって世紀末に大量のゴルフ難民を生み出す結果となった。本来オーナーであるべきクラブ会員は破綻ゴルフ場の不良小口債権者としてゴミのように処分されたが、その数100万とも200万とも言われている。
このようにポリシーなき経営は多くのゴルファーの夢を砕き、ゴルフ史に残る禍根とゴルフ文化の毀損を招いたが、米国は既に日本より60年も早くこのような体験をし、学習して今日の繁栄を築いたことを思えば、日本も明確なポリシーを構築して更なる発展を目指すことも夢ではない。

プライベートコース

ゴルフ黎明期は全てプライベートコースから始る。ゴルフ好きの有志が自分たちのゴルフ場をつくろうと集まり、資金を出し合ってコースを建設しクラブを結成する。しかし自分たちではコース管理もクラブ運営も巧くできないから専門家に委託せざるを得ないが、その必要から生まれた専門経営者がゴルフプロフェッショナルである。
ゴルフプロフェッショナルが、オーナーであるクラブメンバー又はクラブキャプテンの期待に応えるには、充分な経験と知識を必要とするが、内容は極めて専門的である。生涯をこの仕事に懸けた人でなくてはとても勤まらない。米国においても初期段階は徒弟制度による修行によって仕事を覚えなければならなかったから、英国から人材を招聘して経営委託をしていたようだ。
第二次大戦・朝鮮戦争が終って平和産業や教育産業が復活し始めるとNGFは教育プログラムの開発に着手し、PGAはビジネススクールを開催して本格的な人材教育を開始している。NGFが開発した教育プログラムはゴルフ場経営、プロショップ経営、クラブ運営、芝草管理、ジュニア教育など広範囲にわたっているが、そのプログラムを使って行われたPGAビジネススクールもプライベートコースから求められる求人条件を充分満たすものであった。求人基準はクラブ運営やコース管理ができるだけでなく、クラブの品格を維持し会員子女の道徳教育にも当たれる厳しいものであったが、教育を受けたPGAプロフェッショナルはその要求に応えたのである。教育制度こそPGAプロフェッショナルの今日の社会的・経済的基盤を築いた要因である。(PGAプロフェッショナルについては Section 5 で詳説する)
プライベートコースは次第に白人プロテスタントの地域コミュニティに発展し教会と同様、信仰の場であり青少年教育の場へと発展していったようである。全米で5000ほどあるプライベートコースは、現在もビジターをいっさい入れないで神聖なるコミュニティを維持し続けている。だからプライベートコースの経営はビジネスの範疇で捉えるべきではなく、むしろ施設管理やクラブ運営マネジメントの参考にすべきだろう。
プライベートコースは1コース当たり400家族が会員になっているから、全米で600万人くらいがこのような環境にあるゴルファーといえる。プライベートコースから学ぶことは、地域コミュニティとしてのゴルフクラブが、明確なポリシーに基づいて家族の絆づくり、近隣の絆づくり、青少年の教育に役立っていることだろう。ゴルフがキリスト教プロテスタント文化であることを考えれば(ゴルフ基礎原論第一章参照)納得できることであるが、ゴルフの本質や効用を見事に活用している具体例として大いに参考にして良いのではないか。施設事業として施設の豪華さを誇り、資本効率や利益率を追求する以前に、事業の社会性や人々の幸福度にどれほど貢献しているか、改めて学ぶ必要があるように思う。

パブリックコース

パブリックコースには二つのポリシーがある。公共施設としての公営ゴルフ場や民営ゴルフ場の公共ポリシーと、娯楽施設としての商業ゴルフ場のビジネスポリシーである。
前者は公共施設であるから多くの人に安く利用してもらうことがポリシーとなり、市民なら1000円少々、ジュニアやシニアならその半額でプレーできるよう経営することが使命となる。公営ゴルフ場は料金が安くても公園のように整備されているし、民営ゴルフ場も体育施設や福利施設として立派なコースを備えている。
娯楽施設としての商業ゴルフ場は厳しい市場原理の中でより良い施設とより安い料金を目指して激しい競争をしているから、カスタマーであるゴルファーはリーズナブル料金でゴルフを堪能することができる。初心者に優しいコースから上級者を唸らせるコースまで、CS(顧客満足)を得るために最善の努力をしている商業ゴルフ場は、ポリシーが徹底していて気持ちがいい。メジャートーナメントが開催される痺れるようなコースといえども5000円前後でプレーできる環境にあるが、誰でもプレーさせる訳ではなくハンディキャップを提示しなければ断られる。商業主義に徹しても、プレーするにふさわしいカスタマーを選別するポリシーも徹底し、選別カスタマーを不快にするようなゴルファーは最初から入場を断っている。
このようにマーケティング戦略によるベストカスタマーの選択基準を明確にしておかないと、ベストカスタマーそのものを失う結果になるから注意を要する。それどころか初心者から上級者まで幅広く顧客層を取り込もうなどと節操のない経営戦略を立てると、逆に初心者からも上級者からも嫌われてしまう。情報社会のパブリックコース経営は不特定多数の潜在需要に対してマーケティング&プロモーションを行うことだから、ポリシーに基づいてターゲットを定めないと、結果的に誰にもメッセージが届かないことになりかねない。
日本のコースはメンバー制を謳っていても、殆んどポリシーを持たない商業パブリックと考えてよい。看板にビジター料金を掲げてあれば、それだけで立派な商業パブリックコースで、ビジター料金を払えば誰でもプレーできることを意味している。ポリシーとはメンバー制を謳うことではなくメンバー制を守ることである。だからメンバー制とは本来メンバー専用コースを意味しメンバー及び同伴家族しか立入りできないことをいう。
これに対してパブリック制とは一般公開を意味し誰でも入場プレーできることをいう。だからパブリックコースのポリシーは事故や渋滞を回避して、お互いが迷惑を掛けぬよう楽しくプレーできる環境を維持することにある。これはコースガバナンス(秩序維持)ともいい、一般には初心者も安全に楽しくプレーできるコースであり、家族で楽しめる料金システムがとられる必要がある。
反対に上級者をターゲットにしたパブリックなら、難度を明示して入場者を制限しなければコースガバナンスが保てない。上級者は易しいコースでも楽しめるが、初心者は難しいコースでは楽しむどころか周囲に迷惑をかけて辛い思いをするだけである。スキー場やハイキングコースを考えればすぐ理解できるが、技量・経験量の差によって安心安全基準は異なるから、パブリックコースにとってコースガバナンスを維持することは重要なポリシーとなる。
日本のコースはポリシーが曖昧なため、メンバー制を謳っていてもプライベートコースではないから家族もビジター扱いされる。さりとてパブリックコースでもないから、入場するのに紹介者を必要としたり肩身の狭い思いをさせられる。市場原理が働く情報社会では、ポリシーが曖昧なビジネスは大変危険である。日本のメンバー制コースこそ一刻も早くポリシーを明確にして、新しい時代に対応しなければならないだろう。

練習場・インドア施設

練習場やインドア施設も経営ポリシーが必要である。ポリシーというよりコンセプトというべきだろうが、誰が何をする施設か明確にする必要がある。遊休スペースがあったから、なんとなくネットを張って練習場をつくったケースが多いが、オープンしてから行き詰るケースも多い。「ゴルフ練習をする場所」という施設のコンセプトは明確でも、経営目的のコンセプトがはっきりしない。
練習施設を利用する目的は「ゴルフが上達する」ことに尽きるが、さらに大切な目的として「ゴルフが楽しくなる」「仲間ができる」「コースに連れて行ってくれる」というコンセプトがある。経営側が提供するのは練習施設であっても、顧客側が求めるのはクラブ活動ではないのか。クラブ活動の場が提供されクラブ活動に必要なプログラムとスタッフが提供されてこそ経営側と顧客側のコンセプトが一致する。
カスタマーは漠然と練習するだけでは長続きしない。まして一人で練習に行き、成果の上がらない練習をしてひとり帰る。想像しただけで暗い気分になりそうな話だが、練習には動機や目的、方法や手段、目標や結果が必要である。自分ひとりで練習する方が好きだという人もいるが、多くの場合に独学自習は長続きしないか行き詰る。練習施設が提供しなければならないのは練習する動機や目的、練習する方法や手段、練習目標や結果、それに適切なガイダンスやインストラクションである。
練習する場所やボールの提供だけでは本来のビジネスになっていない。本来のビジネスは練習場を使った上達プログラムの提供から始まり、顧客満足をもって成り立つ。顧客満足とはゴルフが巧くなった実感や面白くなった喜びそのもである。具体的にはスコアが良くなった、ハンディキャップがアップした、練習がしたくなった、コースに行くのが待ち遠しくなった、という形で現れる。カスタマーからこのような反応が出始めれば施設事業のプロモーション効果が現れ、新たなコンセプトが確立したことが確認できる。