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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第五章 ビジネスポリシー
Section 2 教育事業としてのゴルフビジネス

NGFは永年にわたってゴルフを教育事業として捉えてきた。具体的には学校教育ゴルフ、社会教育ゴルフ、ゴルファー育成、人材育成であるが、どの場合を取り上げてもゴルフの本質に迫らなければ教育事業としての意味をなさない。
ゴルフが長い歴史と伝統に支えられる文化であることを背景に、人を成長させ人生を豊かにする特性やパフォーマンスを有していることを理解しない限り、教育事業の核心に触れることはできない。これは教育事業のポリシーそのものであり、ポリシーなき教育事業は単なる技術指導やレッスンと何ら変わることがない。私たちは教育(Education)と指導(Instruction)をポリシーの違いとして捉えているが、その違いは人間の向上か技術の向上かと考えて差し支えない。

学校教育ゴルフ

プロテスタント国においてゴルフが熱心に学校教育に導入された事実がある。米国においても1960年代、NGF専務理事ドン・ロッシー氏によって開発プロジェクトが編成され、学校教育プログラムが開発されている。(詳しくは『ゴルフ基礎原論』参照)
その基本コンセプトは「ゴルフの教育性」と「ゴルフの道徳性」が挙げられており、明らかにゴルフの基本精神をポリシーにしているものの全体的にはスポーツとしての性格が強く打ち出されている。米国はプロテスタント国といっても宗教思想の自由が保証され、多くの民族や宗教が混在しているため、学校教育の場にキリスト教プロテスタント思想を強く打ち出すことができないのかもしれない。米国の教育現場、特にパブリックスクールの荒廃は目に余るものがあり、1960年代から「暴力教室」などの映画によって紹介されるほど荒んでいたから、NGFとしてはゴルフを教育現場に導入することによって立て直しを図りたかったに違いない。開発プロジェクトのリーダーだったドン・ロッシー氏は日本に来ても教会を休まない敬虔なクリスチャンだったことを思うと、その想いが伝わってくる。パブリックスクールには宗教思想の制約があっても、プライベートスクールには制約がないどころか、逆にポリシーが明確で宗教が必修科目として導入されている。だからプライベートスクールにおいては、ゴルフの基本精神がプロテスタント思想そのものであることを指導して何ら憚らない。
ゴルフを倫理道徳教育や人間教育の手段として活用することができるから、クラブ活動においてもエチケットやマナーに関して実に厳しく指導され、倫理道徳教育や人間教育が徹底していることが窺える。学校教育の体育授業に取り入れる場合も、単にひとつのスポーツ種目とするだけではなく、ゴルフの基本精神を導入した人間教育のポリシーを明確にすることが大切な要件となることは間違いない。

社会教育

ゴルフを学校教育に限定せず、社会教育の手段として考えるならば応用範囲は実に広い。青少年教育にしても個人、仲間、家庭、教会、地域社会など学校以外の場で実施することができるし、社会人も個人、家族、職場、自治体、コミュニティサークルなどいろいろな場面で実施することができる。
社会教育の場合も教育というコンセプトがあるからには、明確なポリシーが打ち出されなくてはならない。個人なら人格の向上、家庭なら家族の絆づくり、職場やコミュニティなら円滑な人間関係構築などのポリシーが掲げられる。社会教育に掲げられるポリシーは社会的意義や社会性向上など社会との係わりにおいて価値あるものにしなければならない。
日本において学校教育にも社会教育にもゴルフが導入されない背景には、ゴルフに対する価値感が曖昧で明確なポリシーを打ち出せないという理由がある。「ゴルフは不健全である」「ゴルフは贅沢な遊びである」「ゴルフ場は環境破壊に繋がる」など反社会的な価値感が強調されて、「ゴルフは青少年の人格形成に役立つ」「ゴルフは家族友人の絆づくりに役立つ」「ゴルフは高齢者の健康管理や生甲斐づくりに有効」という教育性や社会性が後退すれば、強いポリシーを打ち出すことはできない。ポリシーが曖昧になることによってゴルフの教育事業性も曖昧になり、結局は商業娯楽主義が前面に押し出されて収益性に支配されることになる。
教育事業が「儲からない」という価値判断で中断され消滅していくのは残念なことであるが、ポリシーが明確に打ち出されなければ、社会教育としての意義が問われても仕方がない。『ゴルフ基礎原論』で再三取り上げたように、ゴルフの本質と教育性を正しく理解しないとビジネスとして成立しないばかりか、ゴルフそのものの存亡にもかかわることになる。

ゴルファー育成

ゴルファーを育成することは単純にゴルフ人口を増加させることで、なぜゴルフ人口を増加させなければならないか、それは単に業界の問題に過ぎないと考えるのが通常であろう。それが単に業界振興の手段であろうが、コース練習場の営業手段であろうが、教育事業の一環として行われるゴルファー育成であれば明確なポリシーが必要である。粗製乱造に走りどんなゴルファーであろうとゴルフ人口増加の目的に繋がればよいという姿勢や、顧客優先主義からどんなプレーヤーといえども来るものを拒まない経営姿勢は、自ら墓穴を掘っていつか壊滅的な破局を迎えることになるだろう。
ゴルファー育成が教育事業として行われるからには、優良ゴルファーの育成や正統ゴルファーの育成に繋がるものでなければならない。永年にわたり教育事業としてゴルファー育成に取り組んできたNGFにとっても、常に重要にして悩ましい問題であった。なぜならば教育事業と振興事業は必ずしも両立しない二律背反性があって、健全なことは振興してもなかなか発展しない性格がある反面、不健全なことは禁止しても拡大してしまう性格があるからである。
「健全なものは衰退するが不健全なものは発展する」というマーフィーの法則のような人間社会の本質は、ビジネスの領域でも根強く存在する。教育事業はこのジレンマを克服しない限り決して大きな発展を見ることはない。かつて日本にも「美人女子プロ養成学校」「花嫁修業ゴルフ学校」「地獄の特訓ゴルフ塾」「面接と講習だけで取れる指導資格」など怪しげなタイトルを掲げたゴルフ教育事業が存在したが、長続きしたものは何ひとつなかった。教育事業として行われるビジネスには教育理念に支えられる強烈なポリシーがなければ、繁栄どころか存続も難しいと思われる。しかし成長段階期や経済発展期にはポリシーなき教育事業も急速な発展を見ることがあり、ビジネスを商売として捉え「儲けることが命」と反論されたら言葉を失うが、教育事業は利益を求めても決して理念やポリシーを失ってはならない。
ただ教育そのものに大きな問題や課題が残されていることも考えなければならない。教育というと「つまらない」「難しい」「つらい」という消極イメージが蔓延していて、教育自体に自発性や発展性が乏しいという欠陥があった。教育という概念の中に「おもしろい」「楽しい」「夢中になる」という積極イメージが蔓延すれば、教育事業そのものにもイノベーションが起こるだろうし、ゴルファー育成も大発展するに違いない。
私たちはティーチングからラーニングへ、コーチングからトレーニングへと主役を教育者から学習者に移し、受動的立場にあった生徒を能動的立場に変えることによって教育現場に活気を取り戻そうとしている。シナゴジー学習やインターネット学習は学習者が主体性を取り戻し、自ら学習動機や学習目標を発見して学習者自身が主役となる舞台を創り出している。このような背景からNGFワールドキャンパスは生まれ、独学自習の世界が開けようとしている。これらは全て情報通信革命から生まれたIT社会の出現によるもので、教育改革の結果ではなく社会変化の産物である。社会変化は新しい教育ビジネスを創造しつつあるといえよう。

人材育成

人材育成の世界にもいま大きなイノベーションが起きつつある。IT社会の出現によって教育の概念が変わるだけでなく、人材の概念まで変わってきたからである。20世紀型の人材は有能であると同時に組織に機能する能力を必要とした。ところが21世紀型の人材は創造力があると同時に組織を変革する能力を必要とするようになった。このような人材は決して画一的な教育システムから生まれるものではない。むしろ従来の教育概念外の世界に育つものと思われるから、従来の教育事業そのものの在り方を変革しなければ新たな人材は育たないに違いない。実は人材育成を英才教育という概念に置き換えてすむほど単純な問題ではないように思われる。人材は育てるものではなく育つものであるとすれば、どのような環境から育つものかを研究しなければならない。少なくとも従来の教育環境や教育システムによって育つものではないとすれば、新たな学習環境や学習システムによって育つものと思われる。
新たな学習環境はネット社会に構築されつつあることは誰の目にも明らかだし、新たな学習システムはeラーニングシステムに代表されるように、インターネットを使って学習する時代が到来したことも良く分かる。既に全米大学の全授業がネット上に公開され誰でも聴講できるようになっている。勉学の意思とインターネット環境があれば、中国の奥地やアフリカの僻地からも人材は育つ。僅かな学資があれば世界中の大学で世界的な教授の授業が受けられるし、インターネットによって世界中の図書館を閲覧し見聞を広げることができる。人材育成の概念や環境が根本的に変わり、教育ビジネスも大きく変貌しようとしている。そのような時代を迎えNGFワールドカレッジはひとつの試みとして、ささやかな提案をしたものであるが、21世紀の教育ビジネスに一石を投じるものであればと願っている。