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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第四章-2 施設マネジメント
Section 5 顧客満足度を求めるコースメンテナンスの研究

カスタマーの多様化と世代交代によって顧客満足 ‐Customers Satisfaction‐ が徐々に変わってきている。供給過剰時代に入って供給側の一方的な押付理論は通用しなくなり、経営システムだけでなくメンテナンスの在り方も徐々に変わってきたことを承知しなければならない。
Section 3 で触れたようにメンテナンスも管理者志向から利用者志向に変えていかなければならない時代が到来した。前世代の概念や既成概念が全て正しいとするのは大変危険なことで、グローバルスタンダードからすると根本的に間違っていることも多い。だからといってグローバルスタンダードや業界常識に合わせたという供給側の満足はマーケットでは通用しない。オンリーワンかナンバーワンの地位を獲得するまでは利用者志向やカスタマーニーズに応えざるを得ないのが市場原理である。まして供給過剰のマーケットにあって顧客満足を得ることは、マーケットの生存原理といっても過言ではない。

カスタマーニーズ

コースデザインの基本概念は景観性・戦略性・管理性のトライアングルバランスであった。管理性つまりメンテナンスの立場からすれば、景観性や戦略性と如何に融合するかが重要課題である。換言すれば、メンテナンスの役割は景観性や戦略性を如何に引き立たせていくかが重要課題ともいえる。
コースを訪れる人がいつ来ても素晴らしい景観に感動してくれるならば、それ自体大きな顧客満足である。背景に名山が連なるとか大海が臨めるというのも自然が提供する景観であるが、本来なら設計段階で最大限考慮されることだが、地理地形条件によって恵まれないコースも多い。ならば30万坪の自然公園を意識すれば、その地の自然が提供してくれる恵みの景観があるはずだ。例えばその地固有の樹木や植物が来訪者を楽しませてくれたり、来る度に四季折々の景観が変化して味わいがあることも顧客満足に繋がる。コースの隅々に季節の野草が花を咲かせるのも、落葉樹が四季の景観を変えるのも全て自然が演出する見事なメンテナンスである。
しかしゴルフコースは人が自然に手を加えて不自然にしてしまったので、もう一度人の手によって美しい景観に手直ししなければならない。つまりガーデニングによって個性的な景観を創造するならば、そこにオンリーワンを演出することができるだろう。自然の景観をサポートするものに野鳥の存在も欠かせない。森や林があれば都心部であっても絶えず野鳥が飛び交い、やかましいほどさえずっている。巣箱を設けたり餌付けをすれば、どんなところにも野鳥は集まりさえずってくれる。野鳥が好む実のなる木を植えることも大きな演出になる。池に水鳥が浮かぶさまや水草が生えている光景も絵になるし、その周りにアヒルが遊ぶのも人の心を和ませる。
自然との調和を演出するのは全てメンテナンスの仕事である。メンテナンスが自然や景観を創造し演出することによってコースの付加価値は何倍も増し、大きな顧客満足を得ることができるだろう。景観とは自然にあるもの以上に、メンテナンスによって創造され演出されるものと考えたい。

戦略性とは何か

ストロークプレーはコースとプレーヤーの勝負である。だからといって決してコースが主役でプレーヤーが脇役であってはならない。商業コースの場合にはなおさらのこと、コースは脇役に徹する覚悟が必要である。脇役は主役のパフォーマンスを最大限に引き出す役柄を演じなければならない。そこで戦略性とは何かを考えるならば、プレーヤーにとって戦略的であることで、プレーヤーを苦しめ完膚なきまでに叩きのめすためのコース戦略ではない。
戦略的コースとはプレーヤーが戦略的に攻略すれば最高のプレーを演じ、コースとの勝負に勝って大きな戦果を挙げられることを指す。だからコース側の戦略はプレーヤーに軽く見られることなく、プレーヤーが真剣に攻略しなければ負けるかもしれないという緊張感を誘い、失敗してもリカバリーのチャンスを与え、手強い相手と思わせながらも最終的にはプレーヤーに満足を与える戦略でなければならない。
例えばプレーヤーがティーインググランドに立ったとき、一瞬立ちすくむほど厳しいホールでありながら、どうすれば無事グリーンまで辿り着くかを考え、緊張感を生み出すホールは存在感が強い。そして嫌がうえでも慎重に安全ルートを探索し、期待を伴った緊張感が張り詰めてくるようなら、その一瞬は生涯忘れえぬ記憶として脳裏に焼き付くはずである。
第一打をミスしてもセカンド地点で同じような緊張感が張り詰め、うまくすれば絶妙な起死回生のリカバリーが望めそうなルートがあり、第三打勝負でパーが拾えるかもしれないという希望が湧いてくればパーが取れたときの喜びはひとしおであり、パーを取り損なったとしても、プレーヤーはボギーを大満足で受け入れるだろう。
コースはプレーヤーに真剣勝負を挑ませ、全力で戦った後に挑戦者に敗北感が残らなかったとすれば、それは見事な戦略的ホールとして賞賛されるに値するだろう。戦略性とは挑戦者であるプレーヤーに対して戦略性を要求することで、防戦者であるコースの専守防衛戦略のことではない。コースの戦略性は如何にしてプレーヤーに挑戦意欲を起こさせ真剣勝負を挑ませるか。そして如何にして挑戦者に大きな満足感を提供するかにかかっている。

戦略性の演出

造形したままのコースはマネキン人形のようにのっぺらぼうで無表情である。役者や舞妓がドーランを塗った状態と同じで魅力も特徴もない。目鼻を整え陰陽を付けラインを整えて顔の特徴や表情が明確になる。コースも同じようにホール毎に顔がある。芝草を張っただけの状態では、いくらきれい刈り込んでも「のっぺらぼう」に変わりない。同じ役者の顔が化粧ひとつで美女になり老女にもなる。さらに化粧を変えれば若武者になり阿修羅にもなる。
コースメンテナンスは役者の化粧と同じで、各ホールの顔をいかようにも変えるテクニックでもある。ティーインググランドやフェアウェイから見るグリーン周りの顔は美しく優しく見えるが、ラフやチャレンジルートから見る顔は手強く恐ろしく見せることができる。グリーン面つまり顔は見えないで、バンカーだけが大口を空けてこちらを見つめているように見せるのは、デザインつまり化粧の妙である。グリーン周りやバンカー周りのラインや陰陽が、見る角度によっていろいろ変化して優しさや恐ろしさを表現するのである。同じホールの顔をいろいろ変化させ、プレーヤーに緊張や感動を与えるのはメンテナンスの芸術的テクニックによるものである。コース全体に芝草を張り緑一色にした各ホールは見た目に草原と何ら変わりない。
緊張した名勝負を展開するには戦略的な競技場にふさわしい舞台が必要である。この舞台を演出するのがフェアウェイデザインであるが、のっぺらぼうのスルーザグリーンに曲がりくねったフェアウェイを画き出すのは芝草の刈込み技術である。通常はフェアウェイ、セミラフ、ラフの三段階に刈り込んでホールにメリハリを付け、プレーヤーにルート選択や距離方向に対するマネジメントを迫ることによってゲームの緊張感を演出するものである。フェアウェイデザインができていないコースは、何ホール進んでも代わり映えのしない漠然としたフェアウェイとグリーンが続き、ゲームの緊張感も感動も生まれない。
特徴のない平凡なコースもフェアウェイデザインによって見違えるほど戦略的なコースに見せることができるし、美しく装うこともできるが、全てメンテナンスのセンスと技量に掛かっている。このようにゲームの戦略性を演出するのはメンテナンスのテクニックであり、プレーヤーに緊張と感動を与え、大きな顧客満足を演出するのもメンテナンスの仕事である。