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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第四章-2 施設マネジメント
Section 2 カスタマーニーズに対応するコースデザイン概念

供給サイドが一方的に構築した『豪華クラブハウスを備えた本格的チャンピオンコース』というコンセプトを、需要サイドつまりカスタマーのニーズに対応してターフグラスマネジメントを検証し直すとどうなるか。殆んどのコースに共通して本格的チャンピオンを自認するカスタマーはいない。ベストカスタマー研究で述べた如くベストカスタマーとは「ヘタでもゴルフが大好きな人たち」である。日本において人口の90%以上はゴルフ未経験者である。つまり日本には1億人のゴルフ未経験者がおり、その三分の一はゴルフ潜在需要なのである。また顕在ゴルファー900万人の三分の二はワンラウンド100を切れないエンジョイゴルファーである。
このようなカスタマーのニーズに応えるコースのサービス商品とは何かを考えるとき、従来とは全く異なるコンセプトが生まれてくるのではないか。18ホール必要か、パー72必要か、6500ヤード必要か、豪華クラブハウスが必要か、キャディーが必要か、乗用カートが必要か。反対に大きな練習場が必要ではないか、手引きカートが必要ではないか、貸クラブが必要ではないか、インストラクターが必要ではないか、3ホール単位の料金制度が必要ではないか。
このように根本からシステムを見直すことをリストラクチャリング-restructuring-というが、決して人員整理をすることではない。

カスタマーニーズ

コースの経営トップ及びスタッフはカスタマーが何を望んでいるか、何を求めているかを知らないし考えたこともない。求められても応えようとしたことがない。経営が硬直化し官庁や役所以上にマネジメント機能を失ってしまったからである。ゴルフ場経営に対して固定概念が出来上がり、それを既成概念として固執する姿勢は経営トップから現場まで一貫しているところを見ると、人の総入れ替えがなければパラダイムの転換は起きないかもしれない。
潜在需要も含めて本当のところカスタマーが何を求めているのか、消費者の意識を調査したら驚く結果が出るに違いない。日本ではゴルフに対する反感も根強い。理由は贅沢、不健全、自然破壊であるが、それなりの根拠もあれば事実無根もある。マネジメントプランを立てるに当たってカスタマーニーズを知るうえで、反感こそ最高のヒントである。なぜ贅沢と思うのか、なぜ不健全に感じるのか、なぜ自然破壊と思うのか。
日曜日に家族連れでゴルフをすると10万円掛かるのは間違いなく贅沢である。子供や初心者までがキャディーを使ってスポーツをするのは確かに不健全である。大量の殺虫剤や除草剤を散布することは自然破壊に繋がる。ならばディズニーランド料金にすれば、完全セルフプレーにすれば、殺虫剤や除草剤を使わなければ、そのような経営システムに変えたらどうか。それを経営目標に掲げ、当該コースのセールスポイントにしたらどうか。
ひとつのコンセプトに従ったマネジメントプランが出来上がり、マーケティング、プロモーションに連動した遠大なるターフグラスマネジメントが始まる。反感を解消するポリシーが、結果として本当のカスタマーニーズに応えることになりはしないか。ゴルフ場という自然環境を不快に思う人はひとりもいない。ゴルフゲームをつまらない遊びと思う人はめったにない。ゴルフに反感を持ちながらも自分で始めてみたら夢中になり、一生やめられなくなった人を数多く知っているが、本当のカスタマーニーズは潜在需要の中にあるに違いない。

コースデザイン

コースは通常、戦略性・美観・メンテナンスのトライアングルバランスによってデザインされている。初期のコースデザインにおいては殆んどカスタマーニーズは考慮されず、一方的に設計者の方針と土木請負会社の都合で決められる。営業を始めるとトライアングルバランスがとれているか、どちらかに偏っているか段々判明してくるが、戦略性や美観が優先されてメンテナンスが疎かにされているコースも多い。このようなコースはメンテナンスに手間やコストが掛かり、コストパフォーマンスの低い経営を強いられる。
特にコース全体に急斜面が多かったり、フェアウェイにチョコレートドロップスといわれる凹凸が数多くある場合などは、大型ギャングモアが使えず小型ハンドモアに頼らなければならないので数倍の手間が掛かる。美観を強調する余り植栽に高価な樹木を使ったり、植木職人の手を入れなければならない庭園樹木が植えられている場合もコストパフォーマンスが低下する。戦略性を強調する余りホール難易度を高め、常に渋滞している場合には営業回転率を低下させ、カスタマーの評判を悪くする。コースを建設するときに国の規制によって過剰な植樹を指導されて美観を損ない、メンテナンスコストを高める場合も多い。植林地の管理は風通しを良くするための間引伐採や下枝落しなど、カスタマーに何の利益にもならないコストが掛かるうえ、フェアウェイに日陰や水溜りをつくり芝草の生育を妨げることも多い。
ターフグラスマネジメントはコースデザイン全体から影響を受けているので、トップマネジメントとしてカスタマーニーズに合ったコースの在り方を研究し、短期・中期・長期プランに基づいてコースデザインの変更や改造計画を立てなければならないが、常に利用者つまりベストカスタマーの視点に立つことを忘れてはならない。同時にスタッフ全員が参加意識をもってチームプレーで臨み、経営サイドに立って徹底したコストパフォーマンスを検証し直すことが必要で、結果的にメンテナンスが容易になり顧客満足が得られてコストパフォーマンスが高くなる計画でなければならない。

 

参考文献:
『ゴルフコースの改造』 : 佐藤毅著

コースデザインの基礎概念

コースは戦略性・美観・メンテナンスのバランスによって評価されるが、誰が評価するかが大問題である。専門家の評価やオーナーの自己満足はカスタマーにとって何の意味もない。カスタマーの評価は良いスコアが出せて楽しくプレーできることだから、スコアが悪ければウンザリするし、清算して二万円も三万円も支払えば気分まで悪くなる。
顧客満足とは「また来よう」という気分になれるかに集約される。スコアが悪くても「次はきっと良いスコアが出るだろう」という予感や、「この料金なら今月もう一回来れる」という実感を感じさせることがカスタマーサイドに立ったマネジメント戦略である。トッププレーヤーやロウハンディキャッパーにいくら賞賛されても、エンジョイゴルファーやアベレージゴルファーに「二度と来るか」と思われたらマーケットには残れない。
ベストカスタマーに好まれるコースのデザインはどうあるべきか、を説いた専門書は世にないが『ゴルフコースの改造:佐藤毅』によれば「距離が長いだけが一流の条件ではなく、毎回違った攻め方ができて、巧くいけばパーやバーディーが誰にも取れるコースこそ楽しめるコース」ということになる。全てのプレーヤーが楽しめるコースは理想だが、現実にはありえない。自然に挑戦する登山やスキーを考えれば理解できるが、ベテランとビギナーの楽しさは次元が全く違うのである。
そのことに気が付いたUSGAはスクラッチプレヤーにとっての難度をコースレートで表わし、ボギープレーヤーにとっての難度をスロープレートで表わすようになった。難度を決める要因はスコアを崩す原因となるポイントの数である。ポイントは

 

 (1) グリーンまでの距離
 (2) フェアウェイの幅
 (3) ボール落下点の状況
 (4) ハザードの有無
 (5) グリーン周りの状況
 (6) グリーンのアンデュレーション

 

などだが、スクラッチプレーヤーとボギープレーヤーを基準に従って査定する。現実はダブルボギープレーヤーとスコアにならないエンジョイゴルファーがベストカスタマーであることを考えると、USGA基準では対応できないことが理解できるであろう。ベストカスタマーを苦しめる要因は何かを検証することが大切ではないか。
例えばティーインググランドの目の前に池や谷がある、貧打ではフェアウェイに届かない、スライスするとOBか谷底、アベレージゴルファーの飛距離にバンカーやウォーターハザードが多い、グリーン周りのアプローチが難しい、パットラインが複雑すぎる、グリーンスピードが速過ぎるなど上級者には障害にならない要因も、初級者には障害になる要因が多くある。
ベストカスタマーを構成する初中級者の心情分析や行動原理を研究するには、ゴルフが下手なスタッフや関係者を集めてモデルになってもらい、行動を分析してデータ化すると良い。初中級者の動線と上級者の動線は全く違うはずである。カスタマーサイドに立ってコースデザインを考えるには、基礎概念そのものを考え直すことも大切だ。

飛距離への対応

用具の進化に伴う飛距離の伸長は、コースデザインを根本から考え直さなければならないほどコース側にダメージを与えている。ターフグラスマネジメントにも大きな影響を与え、従来の基礎概念や常識基準が適用できなくなってきている。
コースデザイン上重要な概念であるIPポイント(ティーショットのボール落下地点またはセカンドショット地点)をフロントティーから200ヤード、フルバックから250ヤード地点に設定してあるが、今ではハンディキャップ36に満たない人がフロントティーから300ヤード以上飛ばしてくる時代である。そのうえクルマやバイクと同じように、技術が未熟な人ほど危険を顧みずに飛ばしたがるから、コースデザインは基礎概念から考え直さなければならないし、ターフグラスマネジメントのグランドデザインも大幅に修正されなければならなくなった。現状、コース側の対策はお手上げ状態でハラハラしながら見守る以外に手段がない。
暴走ドライバーには手痛い目にあわせる以外に手はないという意見もあるが、果たしてそれが対策になるか。例えば300ヤード前後のフェアウェイを狭くして左右に池や森を設定すれば、危険防止に繋がると同時に暴走ドライバーからボールを1個を取り上げ、2ストロークのペナルティーを課すことになるから、やがて安全ドライバーに成長するだろうという意見があるが、全てのホールをそのように改造するのは容易なことではない。ティーショットを難しくして飛距離に対応すると、ベストカスタマーの楽しみを奪うことになり、当該コースの評価を落として経営を困難にする。
多くの場合には、IPポイント付近のフェアウェーは広くする代わりに、少し先にクリークを設けたりフェアウェーをラフで分断したりする。このようなコストの掛からない対応策を施すことによって、暴走ドライバーにレイアップすべきか戦略的判断を迫って教育的な訓練をすることもできるからである。このようにフェアウェイをデザインすることはスタッフ全員の研究テーマであり、スタッフのターフグラスマネジメントに対する意識を高め、モチベーションを高めることに役立つ。
スタッフ全員がコースとカスタマーに対して高い関心を持つことがマネジメントのスタートラインであり、チームワークを強化する有効策になる。だから問題や課題を常に全員が共有するシステムを構築しておけばチーム内のコミュニケーションは円滑になり、チームマネジメントが進めやすい環境が整うことになるだろう。このような環境に問題や課題に対して無関心な人や協調性に乏しいスタッフがいると、チームワークは忽ち崩れ、チームマネジメントそのものが巧くいかなくなる。
飛距離への対応はゴルフ界全体の重要問題であるだけでなく、各コースにとっては深刻な問題であり、フェンスを張るとか保険で対応すればよいというほど安易に解決できない。ゴルフを深く知るプロフェッショナルな対応が求められるのである。