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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第一部 ゴルフビジネス  -
第四章-2 施設マネジメント
Section 4 プロスタッフによる作業標準化と標準予算化

プロスタッフとはチームプレーができるスタッフ、チームに貢献できるスタッフのことをいう。チームとはコースや練習場のような事業体の運営スタッフのことをいう。野球やサッカーならすぐ分かるが、ビジネスの世界でチームというと分かりづらいが概念的には同じことである。
野球もサッカーもビジネスも個人プレーとチームプレーがあり、オフェンスワークとディフェンスワークがある。ビジネスチームにとって得点は売上であり、失点は費用である。確実に得点し失点を最小限に防ぐチームは強い。得点もするが常に大量失点するチームは負け続ける。当り前の論理を忘れ勝ちだが、強いチームのプロスタッフは個人プレーに走らず常にチームプレーに徹しているし攻めても守っても強い。
どうすればスタッフ全員がチームプレーに徹することができるか、守りも攻めも強くなれるか悩みがちだが、基本に戻れば難しいことではない。スタッフ全員が当り前のことを当り前にできるようになれば良いだけで、特別なことをしようとすれば難しくなる。ここでもテイラーの科学的管理法が生かされる訳で、プロの技、職人の技術を分析して少し訓練すれば誰にもできる標準作業に整理することができる。
例えばメンテナンスの領域でグリーンを刈ることは最も大切なこととされているが、難しいのはやったことがないからであって、少し訓練を受けて注意事項を守れば誰にでもできる作業である。芝草や樹木に水や肥料をやることも、やり方と注意事項が定まっていれば決して難しいことではない。難しくしているのは組織が作業を標準化していないことと、トレーニングシステムができていないことによる。専門領域の難しい作業だからといって聖域化するから担当者以外は誰もできなくなるのであって、誰でもできる標準作業にすれば、できないことがチームワークを壊すことになる。スポーツの世界なら、あれができないこれができないと言えばチームメンバーから外されるが、ビジネスの世界でなぜそれが許されるか不思議な話である。

作業標準化の進め方

作業標準化を進めるには、まずフロントヤードとバックヤードの作業を洗い出すことから始めなけれればならない。フロントヤードはフロントを中心に顧客に接する部門をいい、バックヤードはコースメンテナンスを中心に施設を管理する部門をいう。
フロントヤードの作業には予約・受付・手配・会計があり、仕事としてマーケティング・プロモーション・インストラクションがある。バックヤードの作業には芝刈・散水・施肥・管理があり仕事としてメンテナンス・ガーデニング・ターフグラスマネジメントがある。
それぞれの作業を標準化つまり一定のやり方を定めてマニュアル化し、TOJ:トレーニングオンザジョブといわれる一定の教育訓練によって誰がやっても同じようにできるようにすることを作業標準化という。全ての作業が標準化されていれば特定のスタッフの専門担当になったり聖域化することはない。スタッフの補充が容易なうえ、いつでもコンバート(ポジション変更)できるから人事が硬直化せず臨機応変に対応することができる。
作業標準化に必要なことは作業をできる限り単純化し簡素化することであるが、簡単明瞭にすることによって失敗やバラツキを最小限に食い止めることができる。「組織とは平凡な人に非凡なことをさせる機構」とピーター・ドラッカーは言ったが、標準作業とは少し訓練を受ければ誰でもできる作業でなければならない。コンビニエンスストア・ファミリーレストラン・ファストフードショップなどの作業標準化は徹底しており、新規採用者も僅かな期間でトレーニングできるので欠員要因が出てもすぐ補充できる体制がとられている。
ひとつひとつの作業が標準化され短期間で修得できても、全作業を万遍なく修得するには時間がかかるし、全作業を総合的に掌握して戦略的にマネジメントするにはさらに経験と研究を必要とする。作業標準化は経営改革の第一歩であり、いかに優れた戦略マネジメントを導入しようとしても日常現場作業がバタバタしていては全て空回りに終る。法的整理を受け事業再生に入った企業やコースが一向に再生できないのは、トップマネジメントが交代しても作業現場や現場スタッフが何も変わらないからである。
どんなに大きな事業といえども全て小さな現場作業の集積によって成り立っている。まして数十人のスタッフによって構成されるコース練習場の現場作業に一貫性や連帯性がなければ戦略的チームマネジメントを実践することは不可能である。戦略的経営改革はまず作業標準化から進めなければならないのである。

作業標準化の現実

いかなる現場においても、作業方法や作業内容を検証して改善改革しようとすれば必ず反対されるし、強行すれば抵抗される。フロントヤードの予約・受付・手配・会計のどれをとっても現場は作業標準化したがらないだろう。どんなに不合理といわれようが自分が慣れ親しんだ方法でやり続けたいという意識は極めて強いから、僅かな改善案に対しても現場は不快感を表わす。
例えば米国豪州カナダで料金後払制のコースはひとつもないが、理由は無駄が多く不合理だからである。日本のコースで料金前払制が少ないのは現場の抵抗が強くて改革できないからである。なぜ現場が抵抗するかといえば料金前払性にすると大幅なスタッフ削減に繋がるからである。
合理化と反対運動は資本主義社会の宿命のようにして既に百年余にわたって労使間で争われてきた。この対立構造は零細企業に過ぎないコース練習場の中にも存在し、古い構造のまま何ら改善されることなくチームワークに至らないのが現実である。特に日本のコースは雇用創造を最優先に人的サービスを中心に経営されてきた経緯があるが、広大な土地買収に伴う代償として多くの雇用を保障し、地域財政に貢献することを約束させられたことによる。殆んどのコースが過剰スタッフを正社員として抱え、かつ合理化が進まないまま高額人件費に経営を圧迫されている。経営を圧迫するだけではなく、世界一の高額料金を生み出す原因にもなっている。
経営破綻したコースの再建案に貸借対照表の改善策はあっても損益計算書の改善策はないのが現実で、合理化を軸とした経営改善が図られない限り何度再建しても二次破綻・三次破綻を繰り返すことになるだろう。現場に原因があるという以前に経営トップの無知無策に原因があると考えるほうが正しい。なぜならば経営トップがリーダーシップを示さない限り現場スタッフは経営合理化を自主的に進める理由がないからである。
しかし現場からリーダーが現れ、リーダーシップを発揮して経営改革に乗り出すならば経営再建は不可能ではない。不可能どころか経営改革は現場の自主的な参加意識や積極的なチームワークなくしてありえない。経営トップがいくら笛を吹いても現場スタッフが踊らなければ軋轢が増すだけで何も進みはしない。現場が自発的に合理化を進めるために専門家を招いて自分たちの作業標準化を行い、無理や無駄を省いて経営効率を高め、経済基盤を強化しようという姿勢があれば、経営改革はたちまちのうちに進展するはずである。本来なら作業標準化は現場の創意と工夫によって生まれるもので、部外者に指摘されて進める方がおかしいが、これが実体であり現実である。

作業標準化の意味

作業標準化を進める意味は、作業を誰でもできるように単純簡素化することと作業パフォーマンスを高めることである。つまり単純簡素化した作業に掛かるコストを最小限に抑えて作業が生み出す付加価値を最大限に伸ばす意味がある。作業のコストパフォーマンスを高めることによって、余力がマーケティングやプロモーションに振り向けられ、より大きな経営パフォーマンスを生み出すことに繋がる。
スタッフが毎日無理・無駄の多い日常作業に追われていては、顧客創造や売上増大に繋がる本来の仕事ができないばかりか、仕事や職場に対する誇りすら持てなくなる。標準や目標のない日常作業は怠惰やマンネリ化の温床となり、創意や工夫すら生まれない体質をつくり出してしまう。
作業標準は各作業に課せられる最低基準を示すもので、作業担当した全ての者が守らなければならない基準である。正スタッフか臨時スタッフかを問わず過失も手抜きも許されない絶対基準でもあるから、この基準をクリアできないものはスタッフに加わることはできない。仮に全スタッフの半分以上がクリアできない場合は作業標準そのものに無理があるか、トレーニング不足として再検証を要する。
作業標準化は業務改善や経営改善の第一歩で、企業やチームの向上心の表れでもある。企業やビジネスチームにとっても作業標準化することによって、スタッフひとり一人が日業作業を客観的に捉え、ジョブローテーションすることによって他の作業との連携を意識するようになる。作業と作業の隙間にある重複や無駄を見出し、そこに創意や工夫が生まれることによって、より合理的な段取や手順が開発される。このように作業標準化することによって少しずつ各作業や作業間の無駄や無理が改善され、やがて業務全体の改善や経営改善に繋がっていく。
作業標準化が意味するところは経営改善もさることながら、スタッフひとり一人の意識改善を通して、そこにプロ意識が芽生えてくることに大きな意味がある。プロ意識は当たり前の日常作業を確実にこなし、当たり前では満足できなくなって、それをより高度なレベルに引き上げようとする意識の中から生まれる自尊心かもしれない。プロスタッフはこのような環境に育つ。

標準予算化

ビジネスやプロの仕事は結果を出さなければならないし結果は数値をもって示されなければならない。さらにアナログ作業はデジタル表示されなければならないし各作業が標準化されたら、その作業にどのくらいのコストが伴うか標準値を示さなければならない。
例えば予約・受付・手配・会計などフロントヤードの作業にどれくらいの時間コストが掛かるか検証してみると、一日平均40組の予約に対して、各組3分の予約受付作業に120分の時間コストが掛かる。フロント受付・手配・会計作業に対して、顧客一人当り5分の作業時間として1日平均160名、合計800分の時間コストが掛かる。フロントヤードの作業に要する時間コストは合計920分ということになり、この作業に支払われる1日当たり給与額を時間で割ればコストパフォーマンスが数値で表わされる。
日本式のフロントシステムによれば予約・受付・手配・会計の作業が予約は事務所、受付と会計は朝夕にフロント、手配はマスター室が別々に担当する。米国式のフロントシステムではカウンターオフィスといわれるショップのカウンターに全ての作業が一元化されている。カウンターオフィスはハウスショップもスタート状況も一望できる司令塔のような場所に配置され、全体をコントロールしながらフロントヤード作業を一元的に処理できるシステムになっている。
現金による料金前払性と伝票による料金後払性では、システムの相違によるコストパフォーマンスの差が大きい。しかし現行制度を維持するためにコストパフォーマンスを高める名目で作業を増やすことには意味がない。例えば玄関前で来場者を出迎え、ロッカールームや売店にスタッフを配置し、浴場に下足番を置くようなサービスは顧客が求めていない。今やキャディー、ランチ、ディナー、浴場サービスすら不要とされるようになってきた現状を考えると、真剣にコストパフォーマンスを追及しているのは供給サイドではなく、需要サイドつまり利用者ではないかという気がする。需要サイドは過剰サービスや不要サービスが必ずコスト負担として料金に跳ね返ることを知っている。だからコストパフォーマンスという概念は、供給サイドよりむしろ需要サイドの方が切実な問題として把握していると考えるべきかもしれない。
いまや利用者サイドに立って料金を少しでも安価にするためにコストパフォーマンスを検証し、利用者が求める最小限のサービスクウォリティに必要な作業標準と標準予算を算定する必要があるだろう。利用者サイドが求めるクウォリティ及び料金と供給サイドが必要と考える標準作業及び予算との間には相当の隔たりがあることを覚悟しなければならない。
そのギャップを埋めたとき初めてカスタマーサイドに立った経営が実現することは間違いない。バックヤードの標準予算化については第二部ビジネスマネジメントで詳説する。