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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
第三章 タスクマネジメント
Section 2 サービスコントロール

タスクマネジメントによって提供されるコースのサービスは、常にカスタマーが求めるサービスでありたい。供給者は常に最大売上や最高利益を求めてサービスの在り方をコントロールしようとするが、消費者は供給者の売上や利益を考えることなど全くない。この意識の乖離にサービスコントロールの難しさが潜んでいる。商業サービスは公共サービスと違って、最終的に売上利益に繋がらないことはできないし続けることもできない。ところが公共サービスは売上利益に関係なく公共利益があれば続けなければならない。この根本的な違いを理解していないとサービスコントロールを誤ることになる。
商業サービスの在り方として「Customers Satisfaction:顧客満足度を求めた結果が利益である」とか「損して得とれ」とか「フリーサービスの時代」といわれる。しかし現実はそんな甘いものではない。商業サービスは民間企業が提供するサービス商品である以上、コスト負担を転嫁することができないから、どこでいつ帳尻を合わせるか頻繁に意思決定を迫られる。特に現代の金融システムは気が短いから四半期(3ヶ月)毎に費用効果や投資効果を検証する。3ヶ月単位のサービスコントロールは果たして効果的なのだろうか。
例えばゴルファー育成計画に従ってジュニアやシニアの入門者を集めてファーストティープログラムを開催したとする。入門者がゴルファーになるには最低1年はかかるし、ベストカスタマーに成長するには3年かかる。養殖や栽培と一緒で出荷できるまで相当の時間がかかるから、結果を急いでも何も得られない。現代の目まぐるしいサービスコントロールには大いに疑問を感じるところであるが、商業サービスが競争原理の支配するフリーマーケットで展開される以上、性急な金融システムに順応せざるを得ない。
需要と供給は初め二律違反の関係にある。需要はなるべく安く良いサービスを求めるが、供給はなるべくコストを掛けず大きな利益を得ようとする。均衡市場ならば時間を掛けずに両者が納得する均衡点に到達するが、買い手市場なら需要が強気になるし売り手市場なら供給が強気になる。Win‐Winの関係に到達するには相当の試行錯誤と時間がかかるが、果たして商業サービスはそれだけの時間・労働・資金コストに耐えられるだろうか。

サービスの意味

サービスという言葉の定義は難しい。「これはサービスです」と言えば無料という意味になるし、「うちはサービス業です」と言えば有料という意味になる。
一般にサービスは目には見えないがカタチを成しているから、良い悪いも有料無料もすぐ分かる。ところが日本にはチップ制度がないから外国に行ってサービスを提供されたとき、有料か無料かいくら払えば良いかサッパリ分からない。日本人観光客は世界で一番気前が良いといわれた時代でも、10日以上も海外旅行をして一銭のチップも払わずに帰ってくる人はたくさんいた。反対に日本に来た外国人は感謝の気持ちを込めてチップを払おうとしても、かたくなに拒絶されて戸惑う人が多い。カタチを成していながら有料無料の判断は環境や状況によって異なる。役人や警察官にチップを払えば直ちに現行犯で逮捕される。
ところが世界には相当多額の金を払わなければ何もしてくれない役人や警察官も実に多い。私はかつてハンディキャップについて調べるため、オーランドにUSGAの担当理事を呼んで説明を求めたことがあった。数時間にわたって詳しく説明を受けたお礼に食事でもと申し出たところ頑なに拒絶された。それならコーヒー一杯くらいどうかと訊ねると承知してくれたが、ついでに彼らの判断基準を訊ねると金額にして1ドルと言う。米国ではコーヒーのフリードリンクが1ドルだったのである。USGAはアマチュアゴルフのサービス機関で規則や制度について指導し説明することがサービスである。それは全て無償サービスで金銭の授受は固く禁じられていて違反すれば解任される。USGAは民間NPO法人であるが規律が守られている。JGAやJPGAは文部省公益法人であるがそのような観念は余りない。サービスを定義付けることは実に難しい。

サービスコスト

本来サービスは人の行為や用益の提供であるから労働や作業を伴う。ところが技術の進歩や社会の変化によって段々とサービスの在り方も変わり、特に21世紀に入って情報通信革命によって決定的に変わり始めた。
身近な例として新聞・雑誌・放送などの情報伝達サービスがインターネットによってグローバル化し直接的になった。情報発信が現場や当事者から直接伝わるようになったため、信憑性や臨場感が増すと同時に権力や国策などによる情報操作できなくなった。さらにサービスコストが決定的に安くなり、従来のサービス産業が成り立たなくなってきた。通信サービスも決定的に変わってきた。手紙がメールになり固定電話がケイタイになった。長距離電話や国際電話が簡便安価になった。その結果、コールセンターやインフォメーションセンターが海外に移転しグローバル化している。集金支払などの金融サービスも機械化が進み迅速安価になった。流通サービスも進化し、あらゆるものが生産者から消費者に直接届けられるようになりグローバルマーケット化した。
サービス形態の変化はコスト面に決定的な変化をもたらし、従来のサービス形態が成り立たなくなっている。つまり従来のマンパワーサービスが余りにもコスト高になり存続できなくなったのである。失業倒産が世界的に蔓延したのは不景気や不況のせいではなく、情報通信革命による社会構造変化が原因である。地球規模で社会構造の変化が起きてきた結果、サービスコストが大幅に減少しグローバルスタンダードによる共通サービスが一般化してきた。現代社会は「良いものは高い」から「良いものが安い」に変わり「悪いものは要らない」から「高いものも要らない」に変わってしまった。だから悪いもの、高いものは市場や社会からどんどん姿を消して、良いもの安いものに変わり、いろいろな分野で経済合理性が追求されるようになったのである。

サービスコントロール

サービスの在り方は時代とともに変わる。典型的なサービス業のホテルといえども、今や玄関のお出迎えやドアボーイは要らない。ましてゴルフコースの玄関出迎えやバッグ下ろしは必要ない。キャディーも必要ないどころか付けるべきではない。ゴルフは今や大衆スポーツであり自己責任ゲームである。欧米諸国のコースにキャディーはいないし、大統領もセルフプレーである。スポーツをするのに鞄持ちを伴につけるのは不健全でおかしい。9ホール毎に休憩時間をとって食事をする必要もない。乗用カートはあっても良いが、電磁誘導カートは何のサービスにもならない。スポーツクラブに高級じゅうたんや豪華クラブハウスは必要ないし、風呂場に下足番も要らない。
反対に必要なサービスとして早朝プレー制度、セルフプレー制度、スループレー制度、サンセットプレー制度、家族ペット同伴制度、変則プレー制度、先行パス制度、食物持参許可など自由で多様なプレースタイルが求められている。施設として豪華ハウスや風呂場より大型練習場が必要である。コンペよりスクールが、キャディーよりインストラクターが求められている。
このようにサービスの在り方は時代やカスタマーニーズと共に変わり、常に新たなサービスが求められる。サービスとは何かを検証し、供給側が必要と考えるサービスではなく、需要側が満足するサービスを研究し創造していくことがサービスコントロールである。古いタイプのサービスはカスタマーから疎まれ新しいタイプのサービスが求められる。ニューカスタマーは過剰サービスを好まないし、お節介をうっとうしがる。現代のカスタマーが求めるフリーサービスとは料金体系が明確で選択自由なオプションサービスではないのか。人手を掛けなくてもバッグは自分で運ぶし、乗用カートも自分で運転する。キャディーは要らない。食事をするか、何を食べるか、いつ食べるかは自分が決める。押付けのパッケージサービスや選択の余地のないワンパターンサービスはカスタマーを増やすどころか減らす恐れがある。サービスコントロールは常にサービスの在り方や内容をカスタマーの立場に立って検証し、CS:Customers Satisfaction:顧客満足度を追求するマネジメント技術に他ならない。
コース練習場のサービスには施設サービス、クラブサービス、プログラムサービスがあるが、従来は施設サービス主体であったものがクラブやプログラムサービスに重点が置かれるようになるだろう。言い換えればハード優先のビジネスからソフト優先のビジネスへの転換を意味する。この転換こそサービスコントロールの課題といえるのではないか。

再びタスクマネジメントへ

サービスコントロールによってサービスの内容が変わることは、それに伴う作業手順や現場のタスクが変わることを意味する。タスクの変更にことのほか困難を伴うのは、担当スタッフの大きな抵抗に阻まれることが多いからである。現在のやり方は現場スタッフにとって最も慣れ親しんだ方法であるうえ、他の人にとっては干渉も協力もできないほど作業に習熟していることが多いからである。長年掛けて習熟した仕事や作業は、その人にとって「命」である。
それ故、その仕事や作業を変えられ廃止されることは「命」にかかわることだから、命懸けで抵抗するのである。タスクマネジメントのポイントは作業手順の単純化や作業の標準化であるから、本来なら担当スタッフにとっても喜ばしいものでなければならない。仕事や作業に余計な神経を使わず楽になれば仕事の効率や作業の能率が上がって余裕ができるわけだから、他人やアルバイトに任せられる部分が多くなって、自分はエキスパート部門に集中できるようになるはずである。
しかし現実はそう考えない。歴史が証明するように、合理化はほとんどの場合が人員整理を伴うからである。カイゼンによって世界一に登りつめたトヨタ自動車は、「解雇なきトヨタ」を誇った途端にリコール問題とリーマンショックの前に大規模な人員整理を決断せざるを得なかった。トヨタの誇るカイゼンはタスクマネジメントのお手本のようなものである。「一歩一秒一円」のコストコントロールによって作業現場を改善して行く厳しいタスクマネジメントも、アクシデントや経済変動の前には人員整理をもって臨まなければならない状況に陥ってしまった。だから十年一日の如くタスクマネジメントを怠ってきた現場は、サービスコントロールによって次に何が起きるか良く分かっているから抵抗するのかもしれない。