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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ経営原論  第二部 ビジネスマネジメント  -
第三章 タスクマネジメント
Section 1 ジョブコントロール

ジョブとは仕事、役割、任務などをいい常に人の知識や判断を伴う。これに対してタスクは日常繰り返し行われる作業をいい、ほとんど人の知識や判断を必要としない。だからジョブは機械やアルバイトに任せるわけにいかないが、タスクはコストパフォーマンスを考えて、機械やアルバイトに代替させることができる。その代わり機械やアルバイトは決められたことしかやらないから、マニュアルにない異常や異変が生じたとき、取り返しのつかない大きなミスを犯すことがある。
カスタマーの日常的不満足から大事故に至るまで、マネジメントされていなかったタスクの領域で起こることが多い。例えば問い合わせや取引を留守番電話や委託コールセンターに任せていたために、潜在ベストカスタマーや大きな取引を逃していたケース。予約を全てインターネットで受け付けていたために、キャンセルが続出したりベストカスタマーを失うケースなどが考えられる。また訓練パイロットの僅かな操作ミスで墜落事故を起こしたケースやアルバイトスタッフが安全チェックを怠ったために人身事故を起こしたケースなどが考えられる。反対に優秀なスタッフの機転や判断によって大きな取引を成立させたり、大事故を未然に防いだケースも多い。このような場合にはジョブとタスクの間隙をコントロールすることがタスクマネジメントと考えることもできるだろう。
ではジョブコントロールは何かといえば仕事内容や役割分担を調整したり変更することを言う。多くの企業や事業所は仕事の内容や役割によって部門や部署を分けている。例えば営業と管理、経理と総務、製造と販売、仕入と出荷というように。しかしカスタマーから見れば同じ企業や組織であり、全員そのスタッフであることに変わりはない。仕事やカスタマーがたらい回しにされ、行き場を失って立ち往生することはよくある。役所を訪ねてこのような体験をしたことがない人を探す方が難しい。内部的には整然と整理された仕事内容や役割分担が外部からみれば複雑厄介な機構に映ることは良くある。カスタマーからすればどの部署であろうが誰であろうが、私の依頼ごとを責任もって処理してくれれば済むことである。ジョブコントロールができていないケースである。

フロントヤードとバックヤード

コース練習場のジョブは、人の世話をする部門と施設の世話をする部門に大別することができる。人の世話をするジョブ領域をフロントヤードといい、施設の世話をするジョブ領域をバックヤードという。役割としてはサッカーやラグビーのフロントとバック、アタッカーとディフェンダーに似ている。
従来のコース経営ではフロントスタッフが芝草管理をすることや、管理スタッフがフロントに立つことは殆んどありえなかった。理由は、フロントスタッフは芝草知識も管理技術も持っていないし、管理スタッフは接客マナーも言葉遣いも心得ていないからである。そのために、フロントスタッフはコースメンテナンスやグリーンコンディションが分からないし、管理スタッフはプレーヤーの技量やカスタマーのタイプが分からない。このように小さな組織機構でありながら、内部連携が取れないことによって、ジョブコントロールもタスクマネジメントもできない状況に置かれているのである。
多くの日本のコースにおいてはフロントヤードとバックヤードに大きな壁が立ちはだかり、経営の一体感は見られない。日本のコース経営においては四つの独立部門から成り立っていると考えられる。フロント事務所、管理事務所、マスター室、レストランの四部門であるが、この四部門はお互いに連携もしなければ干渉もしない。フロント事務所は支配人が、管理事務所はグリーンキーパーが、マスター室はキャディーマスターが、レストランはチーフが絶対権限を持っていてオーナーやトップマネジメントも干渉できないことも多い。従ってフロントヤードとバックヤードという意識も共通の守備範囲という認識も希薄なようである。スポーツの世界でいう攻めと守りに強いチームをつくるには、フロントもバックも含めた共通フィールドの概念を持つことが大切である。

フロントヤードのジョブ

フロントヤードはカスタマーの世話をする仕事が中心で、予約問い合わせからフロント応対、スタートと会計などのタスクによって成り立つ。日本の多くのコースは予約の受付も当日の受付もフロントが行い、スタート票をマスター室に送るシステムをとっている。マスター室はスタート表によってキャディー付けとカート配置を行うが、どのようにコースを回すかマスター室の采配による。アウトコースからスタートさせるかインコースか、レギュラーティーかフロントティーか、昼食時間を取るか取らないかなど、基本的にカスタマーに選択権はなくマスター室の指示に従うことになっている。
午前中18ホールプレーし、昼食後に一休みして夕方までフリープレーしたいとフロントに申し出ても、通常フロントは何も答えられない。マスター室の権限事項だからである。ところがマスター室は顧客の要望にいちいち答える責任を負っていないから、概ね「できません」と冷たく反応する。
フロントヤードのジョブはカスタマーの要望に応え顧客満足を得るための世話をする役割を負っている。マスター室はフロントヤードとバックヤードの中間点に位置するから、人の世話をする意識も施設の世話をする意識も乏しく、スムーズなコースの流れとキャディーサービスに対する責任を負うことに専念する。かくしてカスタマーの要望は部門のたらい回しに会い、不愉快な思いをするだけで要望が実現することはめったにない。
本来フロントヤードのジョブはカスタマーの要望に応え、最大の顧客満足CSを得ることだから、カスタマーの要望に対してできる限り応えなければならない。本来のフロントヤードジョブはもっと幅広い仕事をする立場にある。マーケティングとプロモーションである。ニューカスタマーを探り、ニューカスタマーを快適に迎え入れる環境とプログラムを常に用意して置かなければならない。
ゴルフ経験のない家族連れがリゾートコースを訪ねたらどうするか。新しい工業団地やニュータウンが開発され、周囲に潜在ゴルファーが大量に転居してきたらどうするか。フロントヤードは常にニューマーケットやニューカスタマーの開発に目をギラギラさせていなければならない。あれもできません、これもできませんとカスタマーの要望を断ることがフロントヤードジョブではない。

バックヤードのジョブ

バックヤードのジョブは施設の世話をすることが中心で、コースメンテナンスをはじめとして、カスタマーが快適にゴルフを楽しむ環境を維持するタスクによって成り立つ。一口に快適にゴルフを楽しむ環境といっても簡単なことではない。なぜならばカスタマーとはいろいろな価値感や要望を持った複雑な存在だからである。
まず技量経験の差がまちまちである。易しいコースでは楽しめないプレーヤーから難しくてはゴルフにならないプレーヤーまでいる。子供や女性、高齢者もいる。ゲームを楽しむ人、ウォーキングを楽しむ人、景観を楽しむ人もいる。全ての人を満足させることは理想だが不可能である。それならば経営戦略に従って、ターゲットとするベストカスタマーに照準を合わせ基本ポリシーやコンセプトを明確にしなければならない。
NGFによるベストカスタマー研究によれば、40%のカスタマーが80%以上を消費する。バックヤードはフロントヤードのマーケティングから40%のベストカスタマーの好みや要望を理解し、それに応えるコース環境を整備しなければならない。ベストカスタマーを掌握する上で理解しておかなければならないのは、上級者と初中級者の比率は1対20であること、女性と男性の比率は現在1対5であるがやがて同等になるであろうこと、競技志向とエンジョイ志向はやがて逆転するであろうことなどである。日本のコースの多くは上級者にとって易し過ぎるし、初中級者にとって難し過ぎる。
バックヤードは日々同じタスクを繰り返していないでベストカスタマーを満足させる環境を創造し続けなければならない。上級競技型プレーヤーは5%もいないとすれば、現在のコースレイアウトやコース設定は根本から変更しなければならないのではないか。バックヤードのジョブはカスタマーの要望に応え、メテナンスにかかるコストパフォーマンスを高めながらタスクを標準化し、ローコスト・ハイクウォリティの施設サービスを提供することにあるから、常にベストカスタマーの志向を観察していなければならない。

ジョブコントロールの姿

ジョブコントロールはフロントヤードとバックヤードの協力体制から生まれる。フロントヤードが得点を狙うアタッカーならばバックヤードは失点を防ぐディフェンダーである。フロントヤードがニューカスタマーを開拓してもリピートしなければ、いつまでたってもベストカスタマーは育たない。リピートする動機は簡単である。カスタマーが「また誰か誘って来よう」と思ってくれる以外にない。地形が悪い、アクセスが悪い、コース設計が悪いはジョブコントロールで対処できないように思うが、ジョブコントロールで対処できることも多い。
地形の悪さを生かして自然公園風のハイキングコースにし、四季折々の季節感をもたせ自然の野草や野鳥を大切にするジョブに切り替える方法がある。外国のコースでは、野生のリスや野うさぎがコース内を走り回ってゴルファーの心を和ませてくれることがある。地形の悪さやアクセスの悪さを生かして、元の自然を回復する戦略に変え、ピクニック気分で小川のせせらぎや野鳥のさえずりを聴きながら弁当を食べ、竹の子狩・野草狩・きのこ狩など季節の楽しさ演出するジョブコントロールがある。田舎の温泉旅館や別荘地などの付帯コースは徹底的にコストを削減してオンリーワン戦略を立て、家族連れやエンジョイゴルファーを誘致することも可能である。
コース設計が悪い場合は競技コースのコンセプトを捨てて、徹底的に研修コースや演習コースを目指す方法がある。山岳丘陵地に造成したコースは最初から競技コースには不向きで、トラブルショットの練習場にした方が適切である。スタッフは全員インストラクター機能を持ち、18ホールをバラバラに分解して全ホール練習用・研修用にすれば、多彩なプログラムを組んでオンリーワン施設を提供し、外部インストラクターと提携して多くのカスタマーに利用してもらえるだろう。
ジョブコントロールは新しい仕事を創造し演出することから始るから、常に斬新な発想と応用力をもって対処しなければならない。コントロールの意味を「管理する」「制御する」と解釈したらジョブコントロールは意味をなさない。コントロールを「変革する」「創造する」「演出する」と解釈すればスタッフ全員がフロントヤードの強力なアタックメンバーに変身するだろう。
斬新的なジョブコントロールから新たなタスクマネジメントシステムが誕生し、満足したニューカスタマーがリピーターとなってコース経営を支える。