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National Golf Foundation College Textbooks
THE GOLF FUNDAMENTALS
-  ゴルフ基礎原論  第一部 ゴルフゲーム  -
第四章 ゲーム
Section 1 ショットとパットの複合ゲーム

ゴルフゲームの本質はショットゲームとパットゲームという、似て非なる二つのゲームが複合して、ゴルフというひとつのゲームを構成している点にある。標準パー72のコースはショット数36+パット数36で成り立っている。このコースをパープレーしたときショット数36+パット数36であっても、ショット数42+パット数30であっても、ともに同じスコア72と記録されるが、ゲームの内容は大きく異なる。300ヤードショットも3インチパットも、同じワンストロークであるところにゴルフのおもしろさが隠されているというが、ゴルフゲームの本質を理解するうえにおいては実に大切な概念ではないのか。ゴルフがトータルスコアを争うゲームであっても、ショットとパットの本質の違いを充分に認識し、両者が複合してひとつのゲームになっていることを改めて理解する必要がある。

ショットゲーム

ショットゲームの特徴はボールをキャリーで運ぶ割合が多いことで、ゲーム中80%はボールが空中を飛行しているために、弾道が大変重視される点にある。なぜ空中飛行が多いか考えると、約100万m² のコースの大半は地形障害や自然障害に阻まれており、ボールが地上を転がっていくことが困難不可能だからである。ゴルフを冒険旅行に例えれば、目的地まではなるべく飛行機を使っていき、目的地に着いたら自分の足を使うような話だ。
飛行機も遠距離ならジェット機を、中距離ならプロペラ機を、短距離ならヘリコプターが役に立つ。ショットゲームでは道具の使い分けがストロークを少なくする決め手となり、クラブ選択は戦略上極めて重要な役目を負っていることが分る。ショットゲームも飛行機も着地場所の良否が重要で、着地の失敗は命取りになることもある。良好な着地点を定めることと、風向・風速・気象条件を観察することが着地の成否を決定するが、中距離までは着地してからのランも考慮しないと失敗することがある。冒険旅行は危険が伴うからおもしろいのだが、どんな冒険も命取りになるような失敗や事故は許されない。冒険と危険の見定めは重要ではあるが、ある程度以上の体験訓練と学習研究を要することは避けられない。そのうえでコースマネジメントの意義と重要性が問われることになるが、現代ゴルフの特徴はマネジメント上必要とされる正確な情報が、事前に用意される点にある。
情報とはコースレイアウト、距離高低、ハザード配置、フェアウェイルート、コースレート、スロープレート、ホールハンディキャップ、ホール難度、グリーンスピード、アンジュレーション、ピンポジションなどをいうが、日本ではこれらの情報が用意されていなかったり、いい加減だったりすることも多い。また用意されていても、利用しない人や利用できない人も案外多いことも事実のようである。情報社会の影響を受けたせいか、現代ゴルフは情報処理によるマネジメントゲーム化していることが窺えるが、実際はその変化にすら気が付いていない人も案外多いことには驚かされる。

マネジメントゲーム

ゴルフがマネジメントゲーム化し、クラブがオプションギア化した背景に米国で進められたゴルフイノベーションが大きく影響を及ぼしているが、その結果ショットゲームにも科学技術が導入され、デジタル表示されるようになったと考えられる。第2章で詳しく述べた如く、1960年代にアンスレイ卿チームの科学的研究が進められた結果、米国で科学技術開発が盛んになり、コース設計や芝草管理、ハンディキャップ計算やコース査定、素材研究やギア開発に著しい進化が見られた。コースは設計段階から難易度設定をデジタル情報化し、挑戦者のモチベーションを高めるために情報公開するようになった。プレーヤーは事前に情報を入手し、コース攻略のマネジメントプランを立て、ギア選択やセット調整を行うことができるようになった。冒険旅行に出発する前に充分な情報収集やルート研究を行い、必要な用品用具を取揃えるのに似て、ゴルフ愛好者にとって大きな楽しみのひとつにもなったのである。
一生に一度はプレーしたいコースの情報を入手し、何色のティーからプレーすればコースハンディキャップを何ストローク与えられ、各ホールどのルートを選択すれば自分のパープレーが可能かシミュレーションすることができる。シミュレーションはコースマネジメントにとって重要な要件であるが、更にハンディキャッピングおよびナビゲーティングによって、極めて合理的に行えるようになった。ショットゲームは充分な事前研究と攻略計画に基づいて、プレーヤーとギアのパフォーマンスを最大限に発揮するようマネジメントすれば、そのプレーヤーにとって満足すべきスコアが得られるシステムになったのである。ショットゲームにとってプレーヤーとコースのハンディキャッピング、コースナビゲーティング、プレーのシミュレーションはコースマネジメントの重要な要因となっている。
これらの点については「ゴルフ基礎原論 第二部 ゴルフマネジメント科学」で詳説する。

パットゲーム

ゴルフゲームを使用クラブ面から考えてみると、ほとんど全てのプレーヤーがショットゲームのためには13本のクラブを用意するのに、パットゲームのためには1本のパターしか用意しない。理由は簡単でショットゲームではいろいろなクラブが役に立つが、パットゲームでは1本しか役に立たないからである。 仮に長さやヘッドの異なる7本のパターを用意してプレーしたとしても、恐らく最終的には1本しか使わなくなっているはずである。上級者やトッププレーヤーで頻繁にパターを変える人を余り見かけないし、むしろ1本のパターを10年も20年も使っている人の方が遥かに多い。ショットゲームではクラブに対する依存度が高いのに対して、パットゲームではプレーヤー自身の感性に対する依存度が高いからである。
パターを頻繁に取替えたり、シャフト交換しないのはパターがウッドクラブやアイアンクラブと異なり、まだギア化していないからと考えられるが、やがては科学技術の進化によってギア化した数本のパターを持ち歩く時代が来るかもしれない。それはともかく、パットゲームの特徴は道具に依存するよりも、もっぱらプレーヤー自身の経験や感覚に依存する比率が高い点にある。トーナメントで優勝争いするトッププレーヤーといえども、多少のショットの不調はリカバリーできても、パットの不調はリカバリーすることはできない。パットゲームの1インチはショットゲームの300ヤードより重いといわれる所以である。優勝のかかった最終ホールでティーショットを曲げたとしても、更にセカンドショットを乗せ損なったとしても、未だ勝利のチャンスは残されているが、ウィニングパットを1インチでもミスしたら優勝のチャンスは失われる。

100万m² のコースで、パットゲームが行われるグリーン面積は約1万5000m² と全体の1.5%にすぎない。それにも拘らずショットゲームとパットゲームに配分された規定打数は同数である。ゴルフが似て非なるショットとパットの複合ゲームであることを理解するうえで、その面積比を考えれば使用するクラブが13対1というのは納得できる話だ。しかし同じ規定打数に対して使用クラブ数が13対1というのは納得できない話である。パットゲームの特徴はこの納得できない点にあると考えなければならない。例外はあるとして原則的にグリーン上にハザードを設けたり植栽することはないから、グリーンではあくまでもパター1本で競うようにつくられている。むしろグリーンではパター以外のクラブを使用することがエチケットとして禁じられている。
グリーン上で展開されるパットゲームでは大男も女も子供も、プロもアマも互角の勝負と見なされて誰が勝つかカップの音を聞くまで分らない。大試合の最終ホールグリーンでは、今までどれだけ多くの劇的舞台が演出されてきたか知れない。そこは幾度となく興奮と感動のるつぼと化し、歴史に残るドラマが演じられてきた。誰の目にも敗者と映る選手が10メートル余のパットを沈め、王者と映る選手が数十センチのパットを外すさまをギャラリーはどれほど目にしてきたことか。ゴルフの神秘性や魔性を目の当たりにしたとき、人はゴルフをより深く理解し限りなく惹かれるのである。「勝負を決める最終パットは神の意思」と多くの名ゴルファーたちは考えてきたが、そこには人間の能力や精神を超越した神聖な領域が存在する事実をイヤというほど見てきたのだろう。1995年マスターズ最終ホールでウィニングパットを沈めたベン・クレンショウが、グリーン上に跪いて泣きながら祈る姿に世界中の観戦者はそこに神の意思を見たのだった。ロバート・レッドフォード監督も自作映画「ヴァガーバンスの伝説」で、最終ホール最終パットに奇跡が起こり、そこに神の意思が働いたことを表現しようと演出している。
パットゲームに関しては余りにも不確定要素が多いうえ、むしろ理屈や科学を超越した超物理的、超人間的要素をかしこに感ずるだけに、神聖なる部分を残したまま神秘のヴェールに包んでおいた方が、ゴルフにとってもゴルファーにとっても幸せなのかもしれない。人間が持つ潜在能力の素晴らしさや、神の奇跡を見て感動する喜びは、時代や社会が進化すればするほど貴重なものとして大切にしなければならないだろう。